赤い星々は沈まない:月吹文香著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ
「成瀬シリーズ」で「女による女のためのR-18文学賞」の流れが少し変わったのか?と。「官能」以外にもどんどん新人作家を輩出という変化があったかと思われたけど、今回の受賞作「赤い星々は沈まない」は、R-18文学賞のど真ん中っていう作品で、なんとなーく、ホッとした自分がいました。この路線がやっぱりしっくりくるなぁと。
5編の短編集ですが、どれも胸の奥が疼くような作品ばかり。様々な年代の女性たちが登場しますが、やはり噂通り、表題作の主人公「キヌ子さん」は強烈。施設のマドンナ。モテモテです。80歳近いんですがね(笑)とにかくいつまでも「女の性」を現役で貫き通すというか。そのバイタリティに驚く。
老人施設での高齢男女の恋愛はそれほど珍しいことではないらしい....ということは聞いていたけど、こういう小説でその具体的な様子を見ると、結構生々しいものだ。本作では施設内で男性たちの部屋に悪気もなく訪れ、本能のまま性交渉を重ねるキヌ子さん。
そして彼女を介助する看護師のミサ。夫婦のセックスレスに悩むミサと、自由奔放に生きるキヌ子。ふたりの対照的な様子が話に深みを増す。また、キヌ子の状況を知らされ、取り乱す息子の様子など、結構リアルです。
(本文より)
高齢者の性を扱った小説は、かつて渡辺淳一氏が描いていて、当時は結構衝撃的であったけど、この先、高齢者がどんどん増え、施設内でもこういった出来事は日常茶飯事になっていくのだろうな。いや、すでにか....。そして、こういったジャンルの小説もきっと増えるだろう。
その他、「膣活」にハマる還暦まじかの女性、他人の目を気にする女子中学生の成長物語、死んでしまった婚約者がずっと忘れられなく、一度もセックスをしたことがない50歳の女性等々、多種多様な女性たちの悩みが本の中に渦巻いています。
ひとつひとつは独立した話ですが、前の話に出て来た人が他の話で密かに登場するなどちょっとした細工もなかなか凝っている。もちろんあのキヌ子さんも登場します。思わずニヤリとしてしまいますよ。
ということで、デビュー作とは思えない作品でした。窪美澄さんを彷彿させられるものがあり、今後の作品に大いに期待が持てると作家だと感じました。次作、楽しみです!
月吹文香プロフィール
1978年生まれ、東京都出身、大阪府在住。2019年、第18回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞(月吹友香名義)。(新潮社・著者プロフィールより)
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