神と黒蟹県:絲山秋子著のレビューです。
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感想・あらすじ
ひさしぶりの絲山さんの小説。タイトルからどんな話なのか全く想像がつかなかったけど、「そう来たか!絲山さん。」と思わず言いたくなった。というのも本作、絲山さんがゼロから架空の県「黒蟹県」を見事に作り上げてしまっているからなんです。
もちろん作家のお仕事ってそういうもんじゃない?って話なんですけど、黒蟹県は物語的なファンタジーな場所でもなく、いたって普通の県、なんなら日本最後に加わった「県」として登録されてもいいような普通の「地味県」なのです。
住んでいる人も、土地についてのあれこれの話も特別なものはない。でもなんだか面白く感じるのは、架空の方言や単語がごく自然に登場する。会話自体は実際に私たちが使っている言葉が大半なのですが、耳慣れない言葉がたまにまぐれ込んでいる。なので、これって架空?リアル?っていちいち気になってくる。しかし心配はご無用。これらの言葉は各章の最後に辞書のようにまとめられています。
新たな方言までも作り上げる絲山さん。この県の地図もしっかりあり、登場する場所の位置関係なども確立。読者はそれらを確認しつつ読むのも楽しいわけだが、読んでいて感じたのは、書いている絲山さんが一番楽しかったのではないかなと。県の歴史や文化などの細かい部分をひとつひとつ積み上げて大きな自分だけの世界を作る作業は、きっとゲームみたいな感覚でワクワクしたんじゃないかと。
リアリティがありながらも、こんな場所も登場する。
こんな不思議な話もサラッと登場する。それともう一つ。本作にふわっとした感じが常にあったのは「神」の存在が大きい。人々の日常に紛れ込んでくる「神」が、なんとなく不思議な雰囲気を醸し出すものになっている。
ということで、気づいたら引き込まれる話でありました。「地味県」ならではのひっそりした面白さが魅力的な作品でした。
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