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【書評・感想・あらすじ】まっとうな人生:絲山秋子

 

 

まっとうな人生:絲山秋子著のレビューです。

☞読書ポイント 

コロナ禍という特別な時間の中に生きる、普通の人々の生活を描いた作品であるが、普通であるがゆえの面白さがこの物語にはある。小さな会話から見え隠れするそれぞれの人生観は意外にも深く心に刺さる。まっとうな人生ってなんだろう?富山県あるあるにも注目。

 

まっとうな人生

まっとうな人生

 

感想

久しぶりだなぁ~絲山さん、なんてことを思いながらソロリソロリと読み始めた。ん?舞台はどうも富山県みたい。絲山さんと言えば群馬県の小説が多かったのでちょっとびっくり。いや、群馬県から出るなって言っているのではないけど、それだけ群馬と絲山文学の結びつきは強い。さて、絲山さんが描く富山を堪能しようではないか。

 

というか、先に言っておくことが。本書はすでに出版されている「逃亡くそたわけ (講談社文庫)」の延長線上にある作品です。わたしは未読だったのですが、登場人物である花ちゃんとなごやんは、「まっとうな人生」以前からのお知り合いだったようです。このことを読後に知り、思わず「ちっ」っと舌打ちしたくなってしまったわけですよ。でもまぁ、未読でも普通に楽しんでしまいましたが(笑)

 

 

 

 

さて、花ちゃんとなごやん、本作では既婚者で子供もいる。舞台は富山県。偶然この地で二人は再会し、家族ぐるみでのお付き合いをしている。で、ふたりは以前どんな関係だったかと言うと、花ちゃんは 双極性障害でその昔、入院してた。同じ病院になごやんも入院していて知り合ったという。しかも、その病院からふたりは一緒に逃亡した過去がある。そのあたりのことが「逃亡くそたわけ」に描かれている....はずなのです。

 

そんなこんなで時を経て、時代はコロナ禍。都会とは違い富山県は感染状況も比較的スローペース。それでも世の中の状況はどんどん変わり、行方が見えず、人々の不安や苛立ち、そしてことあるごとに分断が起きる。本書を読んでいると、「あーそうだった」とすでに忘れかけていることがいっぱいあった。

 

この物語に出て来る人たちってリアルにうちの隣に住んでいてもまったく違和感がない人達。なにかの縁でその土地に住み始め、普通に見えても何かしら病を抱えたり、身内との悲しい別れがあったり、口にこそ出さないけど家族に不満や秘密があったり。そんな人々のある一時を綴った話であるので、特別なにかすごいことが起こるわけではない。けれども、それがかえって面白かったりするのだ。

 

些細な不服は日々あって、さらにコロナ禍という異状な時期で人間関係もちょっとガタガタしたり。そのあたりの会話や描写が絲山さんならではのリアリティをもって描かれている。そして、彼らから吐き出される何気ない言葉がやけに心に響いて来る。

 

また、富山のちょっとした観光気分も味わえた。頭の中では石川と富山がごちゃついていたけど、今年に入って富山県が舞台の小説2冊目と言うことで、スルスルと頭の中に入って来るものがあった。今回は富山弁や博多弁など方言も色々出て来た。知らない言い回しがたくさんあって、ちょっとした外国語みたいで面白かったなぁ。

 

 

 

 

これまで読んだ絲山さんの作品には、男友達の話が結構あった。本書でも花ちゃんにとってなごやんは男友達に近い感じなんだけど、男女間で友達は成立するかって話も登場。わたしは普通にあると思うんだけど、そう思わない人もたくさんいるわけで、久しぶりにこのちょっとした問いかけを考えてみたりもした。

 

ということで、身近な感じな小説なだけに、なにか妙に面白かったなぁ。あと、コロナとの戦いは、なんやかんやと本当に色々なことがあったのだなぁ....と、ここ2~3年を振り返る機会にもなった。トイレットペーパーが不足とか、消毒液が不足とか、イベントをやる、やらないとか、いろーんな騒動や不安があったあの頃。そんな話も今はもう忘れつつある。

 

またいつか、ひょっこり花ちゃんたちに会えるのだろうか?というか、わたしは「逃亡くそたわけ」を読んで、はやく彼らの過去を知らなければ!

まっとうな人生

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絲山秋子プロフィール

1966年東京都生れ。早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅設備機器メーカーに入社し、2001年まで営業職として勤務する。2003年「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、2004年「袋小路の男」で川端康成文学賞、2005年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、2006年「沖で待つ」で芥川賞を受賞。(新潮社・著者プロフィールより)

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