深夜薬局歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます:福田智弘著のレビューです。
☞読書ポイント
感想・あらすじ ここはみんな止まり木、そんな薬局が歌舞伎町にはある
「深夜薬局歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます」―――本のタイトルからすでに内容が読み取れる。深夜、薬局 歌舞伎町。間違えなく普通の薬局とはひと味違う人間ドラマがそこにありそう....と手に取った一冊です。
日本一の歓楽街・歌舞伎町。そこに夜の8時に開く薬局があるという。店名は「ニュクス薬局」。大きなホストの看板の下、白いネオンの薬局はそこだけ異空間の入り口のようで、朝になったら消えている...なんて物語が1本作れそうな佇まいだ。
薬剤師は一人。いつ訪れても薬剤師兼経営者の中沢氏がお客さんの相手をする。これが結構大事なポイント。いわゆる普通の薬局は交代制だったりするわけだから、いつも同じ薬剤師が接客してくれるとは限らない。けれどもここはいつでも中沢さんが居てくれる。その安心感は大きい。
言ううまでもなく場所柄、訪れる人々は様々な職業、様々な事情を抱えている人が多い。10の話のタイトルは以下の通り。人々の様子がタイトルからも窺える。
1、妻子あるお客さんの子を妊娠したキャバ嬢
2、ホストとバーテンダー、気の合うふたり
3、「別荘」でのクチコミでやって来た男性
4、多重人格を告白するガールズバー店員
5、嵐の夜に駆け込んできた女性の傷
6、「ミスが多い」と悩む事務員の決断
7、AV出演を相談する性風俗店の女性
8、彼氏の学費を工面したいと悩む女性
9、コロナ禍で落とした命
10、獄中からの手紙
ただ単に処方してもらうために訪れる人から、ここを待ち合わせ場所にしたりする若い女性などもいる。よく来る人の様子を瞬時に読み取り、ひと言、ふた言、声をかける中沢氏。その会話が絶妙だ。基本的なスタンスは傾聴。そう、カウンセラーそのものだ。相手が話すことに耳を傾け、必要以外はアドバイスはしない。また、座れる椅子を用意し、いつでもゆっくり話せる場所にしている。
中沢さんの仕事は室内だけに留まらず、必要であれば近隣へ薬の配達もする。これは本当に助かるだろう。今はファストドクターなど、夜に往診してくれるお医者さんも居ますが、深夜にこうしたサポートをしてもらえる、特に一人暮らしの人とかには本当に心強い存在だ。
中沢氏の薬局で面白いなぁと思ったのは、滋養強壮剤のボトルキープ。常連さんは3000円の滋養強壮剤を購入して店に置いておくそうだ。このサービスは夜に働く人たちに大人気だそう。
また、二日酔いや疲労に効くとある高価な漢方薬や、コンドームのバラ売りなども。1箱はいらないって人たちのために用意しているとか。まさに客のニーズに応える柔軟性がこの薬局の素晴らしいところ。そのほか、保険証の保険者番号でその人の情報がざっくり得ることが出来るなどの小ネタも面白い。
とにかくお客さんの状況を瞬時にキャッチして察する。このセンスみたいなものが抜群だからこそ務まるのだろうなぁと感じました。
小さな薬局から見えてくるものは、どれもリアルな人々の生活そのものだ。コロナの影響をモロに受けた場所でもある歌舞伎町、そしてそこに居る人々の苦悩。そんな人々の支えになっているこの薬局の存在は何よりも大きい。
本当はどこの町にもこんな薬局があるといいなぁと思った。自殺者が多い国でもある日本。心療内科へ行くのはハードルが高い。ちょっとした健康のアドバイスをしてもらえるとか、気楽に行ける場所があれば救われる人が増えそうな気がする。なかなか難しい話ではあるのだけど、誰もがちょっとした「止まり木」が欲しいと思う世の中だ。
テレビでも紹介されました
中沢さんの薬局は、かつて「ドキュメント72時間」(NHK総合)、「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ)でも取り上げられたみたいですね。
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