おやすみ、東京 : 吉田篤弘著のレビューです。
感想:あなたにとって午前1時はどんな時間?
午前1時の東京の街。
終電も終わった時間帯。若い頃はこの時間帯、結構好きだったなぁ。特に車から見る深夜の東京の街が好きだった。自分が、彼が、友達が、タクシー、運転する人が変われど、みんなが寝静まったこの時間、外に居ることの高揚感は格別なものがあった。空気が澄んでいるのか、信号機の青がいつもより鮮明で、なにもかもがリセットされていくような気さえする深い夜。
本作はいくつかの短編が少しずつ繋がって行き、ひとつの小説になっている。
・時計が一時を打った。
・時計がきっかり一時になった。
・時計を見ると、午前一時である。
・古びた時計が午前一時を指していた。
これらは各話の出だしの文章です。どの話も午前一時からはじまります。
同じ午前一時でも、見ている時計はみんな違うし、状況も違う。そんな雰囲気がよく伝わってくる。
ある人は定食屋で料理を作りながら、ある人は仕事をしながら、またある人は寂しい夜道を一人歩きながら。中には、ハムエッグを食べる人、びわを泥棒をする人までもいる。
吉田さんらしいなぁと感じるのは、夜にしか走らないタクシー、その名も「ブラックバード」。洒落た名前ではないか。他にも夜にしか開かない定食屋とか、古道具屋とか。朝になると「夢だったのかも?」なんて思わされるような異空間的な雰囲気がいい感じなのである。
そんな雰囲気のなか、人々の人生がちらちらと見え隠れ。過去の記憶や、孤独、繋がりを感じながら東京の夜の空気に包まれるいく。
吉田さんの文章は厭味がなく、すーーっとしている。登場する人々もそう。だから、読んでいて疲れない。挿絵に登場する烏も夜の演出に一役買っている。
今夜も午前1時はやってくる。
毎晩この本を「午前1時」に開いてみるのもいいかもね。