百年佳約:村田喜代子著のレビューです。
死んでも気になる子孫繁栄とは
華やかな装丁、そしてタイトルの字面から、今回は明るい雰囲気の小説なのかなと思ったけど、やはり村田作品、奥行きがある意味深い内容でありました。
百年佳約 뱅년가약、paeng-nyŏn-ga-yak、
結婚して一生ともに生きようという約束
なんと今回は、慶長の役により朝鮮から連行された陶工たちの話。
渡来人の日常を描いたものなのですが、話のテーマはいかに子孫繁栄を維持していくかという問題。親たちや死んだお婆ちゃんまでもがこの問題に頭を悩ませ、子供たちの結婚に一心不乱に動き回るのだ。
そんな親たちの気持ちは理解しているものの、子供たちの恋愛にも事情があるわけで、そのあたりのいざこざを含め、全体的に常にバタバタしている印象が残る。
圧倒的な存在感があるのが、亡くなったばかりの百婆。百婆は韓国の神となり、山の上の盛り墓に事実上は眠っている。とは言え、可愛い孫たちの結婚問題に日々、ヤキモキしていて、たまに家族のもとに行き、彼女なりのやり方でうまくいくように現れたり、仕掛けたりする。そのあたりがちょっと笑えたり、不思議だったりする。
張家と龍窯を守るための結婚は、日本人との結婚も視野に入れるなど難しい問題も山積みである。
結婚にまつわる珍しい風習なども興味深い。死人と結婚させたり、先ずは樹木と結婚させる。なんてものもあった。また、夜這いの話も。
いずれも家族に関する結婚、結婚、結婚の話に終始するわけだけど、それに付随する渡来人たちの伝統、風習、気質などが良く解る内容で勉強になりました。
そして、やっぱり「飛ぶ!!」です。村田さん、今回は百婆を飛ばしました(笑)百婆の孫たちも飛びます。やっぱりこのシーンは楽しいんだな~~。
家族が多くて、若干「あれ?この子はどこの子?」「あれ?このおじさんは誰だっけ?」と、戸惑うことが何度かあったけど、巻頭に名前と続柄が書かれたものがあります。(そこを見に行くと読むリズムが崩れるのが嫌なので見ないんですけどね)
死者も生きている者も一丸となって取り組む「百年佳約」。読後に知ったのですが、本書は「龍秘御天歌」の続編のような話だそう。「葬式」がテーマみたいなのですが、こちらから読めば、もう少し人間関係の把握が出来たかも?とプチ後悔。まぁ、いずれ「龍秘御天歌」も読もうと思う。