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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【感想・あらすじ・レビュー】血も涙もある:山田詠美

 

 

血も涙もある:山田詠美著のレビューです。

血も涙もある
 

 

感想・あらすじ ドロドロした修羅場にならないだけにちょっと不気味な三角関係

 

読者にまずは挑発的な言葉を放つエイミーに、「ふふふ、相変わらずエイミー元気やのぉ」とニヤリ。長年読者をしていると、こうしたエイミー的毒っけのある文章に腕まくりしたくなる。読者も読者ですね(笑)さて、今回はどんな風に男女関係を料理するのか?発売前から超楽しみにしていた一冊です。

 

いわゆる三角関係を描いた小説。妻、夫、その恋人。妻は有名な料理研究家。夫は10歳年下のイラストレーター。そしてその夫の恋人は妻の仕事の助手。もう絵に描いたような人物設定で、各章、各々の視点でこの関係が綴られていく。

 

ラジオ番組の作品紹介では、「誰に気持ちをそわせるかによって見方が変わって来る」ということで番組内では「妻」の立場がやはり多かったのですが、私はどちらかと言うと恋人側からの視点に興味を持ちました。あまりにストレートで、感情のままに動く彼女。誰かを傷つけるとかいう意識は一切なく、好きという感情にどこまでも正直に生きるがゆえに後ろめたさもない。身勝手ではあるものの、どこかピュアなものすら感じてしまう。まぁそれが恐ろしい女性でもあるわけだけど。

 

逆に妻は夫のたびたび起こす他所での恋愛を黙認している。なにがあっても彼は自分のところに戻ってくるということを経験上知っている。だから、他人からいろいろ言われても涼しい顔をしている。助手と夫の仲もとうに気づいているけど、波風を起こすようなことはしない。

 

夫はねぇ、もうどうしょうもないんだけど、なんかモテちゃうんですよね。そういうタイプ。

 

 

 

この三者、通常敵対心を持ちそうな関係であるはずなのに、どこか互いに尊敬とか、自分に足りないものを相手に感じながらいるところが普通の不倫とはちょっと違う。相手のことを決して懲らしめようとかいう雰囲気にはならないところが大人なのか、不気味なのか、ちょっとダークな感じがある。不倫なのにドロドロしない、そういう不気味さっていうのもあるんだなぁ。

 

とにかくサクサク読めます。でも、要所要所、鋭い言葉が飛んで来て、しばらくその文章に釘付けになったり、ポンちゃん(山田さん)的なユーモアが出てきて思わず笑ってしまったり。たまに登場人物が読む本の作家としてご本人らしき人物が出てきたりで、これまたちょっとニクイ演出だなぁ、微笑ましいなぁ、こういうところ、エイミーのいたずらっぽさがあって好きです。

 

そうそう、グラタン、混ぜて食べるか、上のパリッとした食感を味わうか。こういう細やかな人の描写も絶妙。これからグラタンを食べるたびにこの小説を思い出しそうです(笑)わたしは、混ぜません!

 

ということで、ちょっと笑える?不倫小説も悪くない。美味しそうなものも出て来て、後味も悪くない。冒頭の挑発的な文章でちょっと身構えて乗り込みましたが、今回はユーモラスな感じが意外にも強く残った読後感でした。次作も楽しみ!年内にもう一冊お願いします!!

血も涙もある

血も涙もある

  • 作者:山田 詠美
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 単行本