昭和遺産へ、巡礼1703景:平山雄著のレビューです。
まだまだ頑張っている昭和の建物たち。どうか消えないで!
新しい建物を見るより、むしろ古い建物を見る方が好きになったのは年のせいだろうか。とは言え、お城みたいに古すぎるのはまた別。そそられるのは本書に収められているような「昭和にきっと栄えていたんだろうな」と、自分で妄想できる範囲で楽しめる感じの建物。
建物自体がかなり老朽化したもの、時間を背負った染みのついた壁紙、店名の一部が破れたビニールのテント。中にはやっているのか、閉店しちゃったのか見た目では分からない佇まいのお店もある。
筆者はそんな「昭和遺産」と言える場所を47都道府県、108スポットを訪れシャッターを切る。一枚一枚、本当に味わい深い。
時代を一周して今見ると、とてもモダンなインテリアに見える昭和の喫茶店。ソファーや椅子、ペンダントライトの形の可愛さよ!長い年月、お店を支えて来た風格がそこに宿っている雰囲気がある。
いろいろ妄想しちゃったのが、カーホテルとか、昔のラブホテル。古いし、暗いし、狭そうだし....。でも、それが逆に淫靡な雰囲気を煽ると言うか、いかにも秘め事をするところって感じが昭和っぽくってねぇ。そんなホテルに筆者は訪れるだけでなく、しっかりと宿泊して居心地を確認したりするのも面白い。
昔はさぞ賑やかだったのだろうと思わされる観光地の食堂。だれも居ない椅子やテーブルを見るのはちょっと胸がキュンとする。そこだけなにか置き去られてしまったような淋しさが残る。
あと、めちゃめちゃ羨ましいと思ったのは、寒河江市庁舎。なんと、黒川紀章と岡本太郎のコラボという市庁舎の格好良さったら!昭和42年に出来たそうですが、建物自体、今見てもとても現代的だし、内部はホテルのロビーのような素敵な雰囲気。寒河江市は一度訪れたことがあるけど、知っていたら行ってたのにーと悔やまれます。
また、筆者は花巻の古い古い靴屋さんを訪れているのですが、そこで60年代から70年代の女性用の靴を大量購入している。なかなか出会えないとのことで購入されたのですが、いやぁ、、本当、いいなぁ~~。そうかぁ、こういうお宝は、昔ながらのお店に眠っているものなんですね。って、ここで、「あれ?作者は女性だったっけ?」という疑問が浮上。いや、男性です。
で、あとがきで著者のお宅を拝見できるのですが、圧巻!何がすごいって生活そのものが「昭和」ではないですか!筆者のお家だけで、一冊の本が作れそうな勢いです。
ちらちらと自分の知っている昭和の風景が蘇る。長い時間を経てもなお居続けてくれている建物、物、そして人。それらすべてがなんだか愛おしいと思えた時間。昭和トリップ、たっぷり楽しめました。