男ともだち 千早茜著のレビューです。
恋人、愛人、そして男友達
関係のさめてきた恋人と同棲しながら、遊び人の医者と時々逢いびき。
仕事は順調、でも何かが足りない――29歳、イラストレーター神名葵。
なんだ、なんだ、このあっちこっち感。
その上、表題の男ともだちも出てくるわけだよね?
でも千早さんの作品だから、きっとなにかありそうだ。
と、このモテモテ女?に、警戒心をもって臨むはずだったのですが、主人公の神名という女性、えらく淡々とした雰囲気で、いわゆるこういった小説にありがちな、ドロンドロンした展開にはならない。同棲している恋人も、不倫相手の医者も、この小説ではあくまでも脇役。それもこれも、大学の2歳上の先輩・ハセオの存在が大きすぎて他2名の男性が霞んでしまう。
8年ぶりのハセオからの電話で神名は彼と再会する。
昔からこのふたりは、つかず離れずのふしぎな関係なのだが、あえて関係性を名付けるとしたら、やはり「男ともだち」としか言いようがない。
ふたりは互いに恋人がいるけど、恋人とは違った居心地のよさをずっと感じながら生きている。同じ部屋で何時間も過ごしたり、一緒に眠ったりするのだけど、決して一線は越えない。なんとかなってしまえば、それなりに関係性も変化するのかもしれない。
恋人関係に進んだら一体この二人はどうなるか?
私は、ひそかにそんな変化を期待していた。しかし、ふたりの距離感はずっと変わらず話は進む。
ハセオの存在、いいですよね。
あんな存在の人がいたら、きっと女は強くも、弱くも居られんじゃないかと。ちょっと親に近い存在なのかもしれない。
でも、ハセオみたいな存在が近くにいたら、恐らく結婚も恋愛もいらなくなっちゃうかも。そこが幸せなようで不幸。
二人の関係性にはきっと賛否両論あるだろう。
白黒つかない中途半端な関係や、都合のよい関係なんかにイライラしがちだけど、でも、これは「神名とハセオ」が築いた世界。
だからね・・・この小説を読んだあと、「男と女の友情」を、議論するのは野暮というもの。共感するとか、出来ないとか、そんなことすらも超えてしまった男女間の小説として成立しているのだから。
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