味なメニュー:平松洋子著のレビューです。
☞読書ポイント
(本が好き!の献本書評です。)
感想:登場したお店の食べ物、飲み物が「憧れ」のものと化してゆく
キリッとしたテンポのよさが際立つ平松さんのエッセイのファンです。そんな平松さんのうれしい新刊「味なメニュー」。タイトルからしてこれは用心しないと「あれも食べたい、これも食べたい」と収拾がつかなくなりそうな予感がしたものだから、とりあえず読んだらすぐ寝られる深夜に読むことに。
案の定、予感は的中。
本を開く行為は、もはやお店の暖簾をくぐるのと同じ。
一気に食べ物に囲まれてしまっているではないか。
ご丁寧にお品がきも差し出される!?
登場する品目はこの時期を意識してなのか?と猜疑心がムクムク湧き起こる。「シチュー」「煮込み」「おでん」「大衆居酒屋」と、冬になると食べたくなる料理やお店が続々と現れる。
布団の中にいるのに、美味しい匂いの湯気がもうもう立つ店内で顔を赤らめ、ほくほくと料理を食べている風景が浮かんでしまう。
ずるいな~ほんとに。
今回、平松さんはお店の方々のお話をじっくり聞いて、それを丁寧に書くといったスタンスで話が進む。
代々引き継がれて来た味の秘密、料金、メニューの変遷等々、知ることによってさらに行ってみたい、食べてみたいという気持ちを煽ってくる。
美味しそう~と唸るばかりではなく、新たに知り得たことも多い。オフィス街のランチタイムにお弁当を売りに来る「キッチンカー」の一日の仕事や、買いに来るOLたちの「昼どきの事情」という対談など、売る側、買う側の視点からの話も非常に面白かった。
また、デパートの地下や、駅のホームにある「ジューススタンド」。スタンドの野菜ジュースってちょっと高いな~なんて思っていたけれど、いやいや、お店を出していること自体努力の賜物。高いなんてとんでもない。本当に大変な商売だということがよく解る。
というわけで、読んで行くと、あら不思議。
登場したお店の食べ物、飲み物全てが「憧れ」のものと化してゆく。
青汁なんて、てんで興味がなかったのに飲みたくなったし、朝から「飲み屋」なんて考えられなかったけれども、1000円札を握りしめ、赤羽で朝から酔っぱらってみるのもいいかもしれない!など、新鮮な心の動きがあった。
いやぁー予想通り、誘惑度の高い本でありました。
生ビール 360円・・・・・
肉じゃが 180円・・・・・
のりマグロ 150円・・・・・
煮込み 110円・・・・・
憧れのメニューを胸に刻み、美味しい匂いの湯気に包まれる。
こんな想像をしながら眠りに就く読書は数日続いた。羊を数えるより数倍幸せな時間に。ひょっとしたらこれは食いしん坊向けの心地よい「睡眠導入本」であるかも知れぬ。