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【感想・あらすじ・レビュー】死んでいない者:滝口悠生

 

 

死んでいない者:滝口悠生著のレビューです。

☞読書ポイント 

葬式という場は、死者を弔うために集まるものではあると同時に、親族の今と過去を振り返る恰好の場と言っても過言ではない。本作も葬式が行われるわずかな時間に、様々な人々の過去と現在が次々と綴られる。なんてことのないよくある話ではあるけれどそれが一番面白い。

 

死んでいない者 (文春文庫)

死んでいない者 (文春文庫)

感想・あらすじ 

 

とりたて特別な話ではないけれど、なにか特別な時間を過ごしたような気にさせられる作品でありました。なにせある人のお通夜の日という、その家族にとってはかなり特別な日。その様子を読者の私たちはじっと眺めているような感覚で読み進めます。

 

とにかく人が大勢出て来るので集中できない!でも、途中からなんとなく関係性が解けてくるというか、ぼんやり解ってくるので、あまり気にせず読むことにした。

 

そういえば、昔のお葬式ってこんな風にどこからともなく集まる親戚やら近所の方がいたものです。お葬式の時ぐらいしか顔を合わせない遠い親戚なんかは、まさに誰が誰なのかってな感じでした。そんな感じがこの小説にも横たわっていて、いつしか自分が子供時代に経験したあの雰囲気を自然に思い出しました。

 

 

 

 

本作では故人、その5人の子供、そのまた5人の子供、そのまた子供という世代が集まるのです。そして、葬式が進行していく中で、彼、彼女たちのこれまでの人生を振り返ったりしながら、ひとりひとりの人物像が見えてくる。

 

これだけ集まればいろんな人が当然いるわけです。ひきこもりっぽい青年がいたり、子を置いて失踪した親がいたり、外国人と結婚した人など、様々な人生の断片を覗く感じです。

 

この通夜の一夜の過ごし方もいろいろだ。葬式の準備を手慣れた感じで準備する近所の人や、近くの温泉に行く者や、子どもたちは川に行ったり、酒を飲んだりと、結構ハチャメチャだったりもするので、一瞬、人が亡くなったとは思えない。

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確かに昔のお葬式って悲しいセレモニーではあるけれど、久しぶりに会う親戚たちがなにやら楽しく会話ている場面なんかもよく見かけたものだ。そして、子供たちの手持ち無沙汰な感じも本作ではよく描かれている。

 

近年は家族葬などひっそりとお別れするのが主流なので、こんな感じで一斉に親戚一同が集まる機会も少なくなっているでしょう。それゆえにちょっと懐かしささえも覚えた内容でした。

 

とりたて大きな展開があるわけでもないけれど、なんだか妙に残るものがある一冊。明日からまた死んでない者たちは各々がそれぞれの場所に戻り日々を過ごしていく。ただそれだけの物語なのに....だ。

 

 

 

滝口悠生プロフィール

1982年、東京都八丈島生まれ。埼玉県で育つ。2011年、「楽器」で第四十三回新潮新人賞を受賞し、デビュー。2015年、『愛と人生』で第三十七回野間文芸新人賞を受賞。2016年、「死んでいない者」で第百五十四回芥川龍之介賞を受賞。他の著作に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(植本一子氏との共著)など。(新潮社・著者プロフィールより)

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