Web Analytics Made Easy - StatCounter

うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【感想・あらすじ・レビュー】二人キリ:村山由佳

 

 

二人キリ:村山由佳著のレビューです。

☞読書ポイント 

阿部定事件とは一体どんな事件だったのか?スキャンダラスな部分だけが取り上げられがちの事件だったが、阿部定の本心は?彼女と関わりのあった人々の証言から見えて来る本当の阿部定の姿とは?阿部定を知ることにより、事件の見え方も変わる一冊。激しい愛の形が最終的に辿り着いた先に、貴方は何を思うか?

 

二人キリ (集英社文芸単行本)

二人キリ (集英社文芸単行本)

 

感想・あらすじ 

覚悟はしていましたが、読み終えて言えることは、とにかく消耗しました。疲れ果てました。後半へ行くほどその激しさにやられる。もう勘弁してくれと言いたくなるけど、筆者の村山さんは容赦なく、溢れ出る言葉が止められないといった感じで書き綴っている。同著「風よあらしよ」の伊藤野枝の話も大きな熱量にやられましたが、今回はそれを上回るほどの消耗度です。

 

阿部定の話です。阿部定と言えば、語り尽くされたあの有名な事件となりますが、一応、どんな事件を起こした人物かを引用しておきます。

 

阿部定事件(あべさだじけん)は、仲居であった阿部定が1936年(昭和11年)5月18日に東京市荒川区尾久の待合で、愛人の男性を絞殺し、局部を切り取った事件。(Wikipediaより)

 

ネットで調べれば、たった2行足らずで「阿部定とは?」が分かってしまう。一般的に知られているのはまさにスキャンダラスなこの部分であり、それ以上知ろうとする人は、今は少ないのではないだろうか。とにかく阿部定は恐ろしい女性として世に広まっている。かくいう私も、事件を起こしたあと、彼女がどんな人生を歩んだのかも知らなかったし、ましてや相手の男性のことも全く知らなかった。言ってみれば「局部を切り取った女性」という猟奇的な部分だけで阿部定のことを知っているって気になっていた。

 

しかし、知らないことは山ほどあった。逮捕後は刑務所に入り、静かにそこで亡くなったとばかり思っていましたが、実は昭和16年に出所し、名前を変えて一般人として暮らしていたという。あれだけスキャンダラスな事件を起こしておいて、普通に暮らせたのか?と驚くばかり。

 

そして、何故あのような残忍な形で愛人を殺したのか?そこに至るまでの彼女の生い立ち、人間関係等々を知るうちに、私のたった2行しか知らなかった阿部定がどんどん近くなる。すぐ近くにいる存在になって来る。それが「二人キリ」という作品なのです。

 

 

 

 

物語は阿部定の愛人で殺された石田吉蔵の妾の子である吉弥が、定のことを知るあらゆる人々から集めた証言をもとに進行していく。早くから芸妓や娼妓の世界にいた定は、国内を転々としているし、源氏名を変えながらその時代時代を生きていた。関わる人々も多岐に渡る。彼・彼女らの言葉の数々を拾い集めては、徐々に定という人物が炙り出されて来る。

 

男性を知り尽くしていた定ですが、愛人であった名古屋の校長先生に対しての定の「純」な気持ちは際立っている。あんなにも弾んだ気持ちでいた定。このまま落ち着いて行くのかなと思いきや、いわゆる「出会ってしまった」としか言いようのない出会いが訪れる。

 

そう、それが定が狂おしいほど愛した石田吉蔵なのだ。彼の存在を知った日から、定の運命は狂ったように動き出してしまった。しかも出会って三か月。来る日も来る日も二人キリで部屋にこもり、ひと時も離れず繋がっていたという。このあたりの描写の激しさは、さすが村山姐さんって感じです。もう、ページからその熱量が伝わって来て、こっちまで何かを吸い取られていくような....消耗が激しく、ぐったりです。

 

 

 

 

それでも容赦なく二人の性愛は続く。もうなんというか二人のしていることは、例えて言うなら「セックスアスリート」。もはやスポーツと言っても良いのではないかと。寝ても覚めても、何かに憑りつかれたようにふたりはし続けるのです。そして、あの事件が起きるわけですが.....。

 

(本文より)

うん、おそらく<殺意>はなかったんじゃないかと私も思う。読んでいて「あれ?本当に殺しちゃったんだ」って思ったほどあっけなく、そこにグロさはあったけど、殺伐とした感情はない。むしろ、ようやく二人はひとつになって助かったと言える安堵感を覚える。

 

歯止めがきかなくなった二人に恐怖心があったからなのか、人が一人亡くなっているのにこんなことを言うのは不謹慎だけれどれも、定の病的なほど強い気持ちから解放されるのかと思うとホッとする。これが二人が選んだ最終的な愛の形であったたのだろうと自然に思えてしまう。抵抗しなかった吉蔵もまた、はやく楽になりたかったに違いない。

 

 

 

 

身の危険が迫った動物が、子を守るために自ら子を殺してしまうみたいな話を聞いたことがあるのですが、定の起こした行動はそれに近いんじゃないかという気がするのです。吉蔵に関係する女性たちはみな敵で危険なもの。だから、危険が近づいてくる前に....って感じじゃないかと。とても動物的で刹那的だけど、自分たちを守る意味で最大の防御策だったんじゃないかと。本人は無意識だけど、そんな迫り来る危機感があったんだろうなぁ。

 

ということで、ようやく阿部定の事件の中身を知れた気がします。定の気持ちはもちろん本人にしか知り得ることは出来ないけど、この説明のつかないひとりの女性の感情に寄り添った村山さんの描き方はとても良かったです。そうそう、どこか現実離れした世界を漂っていたわけですが、突如、坂口安吾が登場したのはびっくりです。一気にリアル感が(笑)

合わせておすすめ

村山作品「激しく生きた女たちシリーズ」(勝手に命名)は、これからも是非、書き続けていただきたいデス!!伊藤野枝といい、阿部定といい、とても興味深い人選だと思います。次は誰かなってちょっと楽しみになってたりします(勝手にw)

文庫版は上下巻で2冊組

風よ あらしよ 上 (集英社文庫)

風よ あらしよ 下 (集英社文庫)