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【感想・あらすじ・書評】よき時を思う:宮本輝

 

 

よき時を思う:宮本輝著のレビューです。

☞読書ポイント 

人生の幕を降ろす時期に差し掛かった時、今まで関わって来た家族や知人にどんな形で気持ちを伝えたいか。また、自分が大切してきた物を誰に託すか。そんなことを考えさせられる作品。小さな幸せが詰まった作品でもある。徳子さんが言う「小病小悩」は、現代人が目指したい生き方。

 

感想(ネタバレなし)

よき時を思う (集英社文芸単行本)

よき時を思う (集英社文芸単行本)

 

久しぶりの宮本輝さんの小説。今回はお婆さんがメインの家族の話というざっくりした内容を新聞で知り、このパターンは面白そうと、わくわくした気分で読み始めました。相変わらず何かホッとするまろやかな文章にしばらく浸りつつ、話の展開を愉しむ。

 

前半は東京・東小金井にある、中国の伝統的家屋建築の「ごういん造り」が登場する。ここは三沢兵馬という人物が所有するもので、各棟を人に貸している。この四合院造りという建築がとても魅力的に描かれていて、思わず「いいな~」って。何より宮本さんがこんな風に描けるのも、相当この建築が好きなのではないかと感じたほど。そこにちょっと古い良いものがたくさん登場するものだから、想像力がフル回転!

 

 

 

 

話は戻りますが、その兵馬の敷地の一棟を間借りしているのが29歳の金井綾乃。彼女は滋賀県の近江八幡市出身。

 

物語は綾乃とその家族の話が中心となる。ある日、綾乃のもとに祖母の徳子の90歳をを祝う「晩餐会」の招待状が届く。この「晩餐会」で家族が京都に集結し、大変贅沢で豪華な食事をするのですが、その晩餐会が行われるまで、綾乃の両親をはじめ兄弟姉妹の各々の話が差し込まれている。

 

なかでも徳子おばあちゃんの吸引力、カリスマっぽい存在感がとても強い。これ、もしおじいさんだったら案外平凡な話になっていたかも?なんて思う。とにかく徳子おばあちゃんが持つ大きな器のなかにこの家族が存在しているといったイメージ。

 

90歳ということで、晩餐会の手配等みんなは気を揉んだりするのだけど、そんなことはなんのその、完璧な準備に余念のない徳子おばあちゃん。しかも、凝りに凝った晩餐会。一体なぜ、このような会をすることになったのか?そこにには、徳子さんの大変な苦労があった過去を含め、様々な人とのつながりがあったから。

 

 

 

 

晩餐会の様子は食事の内容を含め、かなり事細かに描かれています(食事シーンは特に長かった、いや、長すぎでは?(笑))

 

本書を読んでいて「生前葬」を思い浮かべた。徳子さんが開いた「晩餐会」はなんとなくそれに近い気がした。「生前葬」って言葉は重いけど、「晩餐会」ならちょっとおしゃれ。元気なうちに家族が集まってワイワイと幸せな食卓を囲む。究極、これ以上の幸せなことってない。特に徳子おばあさんさんのように、人生を積み重ねて来た人にとっては、大変すばらしい一日になったに違いない。

 

徳子おばあさんは元教師だっただけに、教え子もたくさんいて、その人たちとのつながりも強い。それらの人々も登場し、まさに徳子おばあさんの人生の集大成を迎える。

 

本書には人生で大事にすること、もの、人が随所に描かれている。

(本文より)

よい言葉ですよね。ものすごく解ります。本作にはそれが実感できる徳子さんが大切ににしてきたものがたくさん登場する。硯であったり、銀のスプーンや竹細工の花器等々。徳子おばあちゃんは、各々に合った品を見きわめ、孫たちに譲っていく。こんな風に大切なもの継承していけるのも素敵な流れだ。

 

 

 

 

さて「晩餐会」を終え、小説も終わりかと思いきや、冒頭の四合院造りのオーナーである兵馬の話に移る。彼は息子との確執があり、関係を断ったままになってる。彼らの過去を振り返りつつ、物語が再び動き出す。果たして彼の家族の行方は.....。

ということで、最終的には2家族の話が入っていました。

 

(本文より)

あぁ、徳子さんの言葉、染み入ります。90歳まで生きて来たからこそ言える言葉。「小病小悩」は、長い人生になりつつある現代人にとって徳子さんは、ある意味理想的な姿かもしれません。

宮本輝プロフィール

1947(昭和22)年、兵庫県神戸市生れ。追手門学院大学文学部卒業。広告代理店勤務等を経て、1977年「泥の河」で太宰治賞を、翌年「螢川」で芥川賞を受賞。その後、結核のため2年ほどの療養生活を送るが、回復後、旺盛な執筆活動をすすめる。『道頓堀川』『錦繍』『青が散る』『流転の海』『優駿』(吉川英治文学賞)『約束の冬』(芸術選奨文部科学大臣賞)『にぎやかな天地』『骸骨ビルの庭』(司馬遼太郎賞)『水のかたち』『田園発 港行き自転車』等著書多数。2010 (平成22)年、紫綬褒章受章。2018年、37年の時を経て「流転の海」シリーズ全九部(毎日芸術賞)を完結させた。(新潮社・著者プロフィールより)