Web Analytics Made Easy - StatCounter

うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】火環:村田喜代子

 

 

火環:村田喜代子

火環: 八幡炎炎記 完結編

火環: 八幡炎炎記 完結編

 

 

「人間そのもの」を考えさせられる深い世界へ

 

「八幡炎炎記」の続編です。気になるあの人たちのその後....。
子供たちはどんな風に育っているのだろう?と、まるで久しぶりに帰郷するような気分で本のなかを覗いてみる。

 

続編の前半はわりとサラッと日常が描かれていた。
あの赤裸々で濃厚な人々の日々は少しだけ落ち着きを見せているが、素直だったヒナ子が反抗期に突入し、自分のやりたいことを見つけたり、本能のまま女性と関係してしまう仕立て屋の克美は店を畳み、新たな仕事でミツ江と別居生活を送っている。

 

今回はヒナ子の成長と克美夫妻の変化を中心に話が展開。なにせこの克美という男は見どころが多い。相変わらず女性関係は淫らではあるが、後半は憑きものが落ちたかのように克美の様子がガラリと変わる。

 

そんな中、ヒナ子を育てているサトの言葉のあれこれは登場人物たちの人生に深みを注入するような含蓄がある。ごくごく日常生活を綴っているに過ぎないのに、生身の人間から見える感情や行動は、何故にこんなにも心惹き付けられるものが多いのだろう。

 

 

 

そして生と死。
小説では登場人物の一人が亡くなった。前半はあんなに元気そうだったのに、死はあっという間にやって来てその命を奪ってゆく。

 

土地に根付いた信仰心や死者を送る場面もきっちり描かれていて「生」と「死」がとてもダイレクトに伝わってくる。

 

ちょうどわたし自身、家族の病気と向き合っていた時期で怖くて、心細くて、何もできない自分が不甲斐なく感じていた。こんなタイミングで読んでいたものだから、何度も胸が詰まる思いがした。死は思っている以上に近くにあるものだと改めて感じたし、誰もが公平に通る道なんだ、順番なんだ、とちょっとだけ救われたりもした。

 

年代も風土も言葉も自分にはあまり馴染みのないことばかりであったのに、最終的にはそんなことは一切意識することなく「人間そのもの」を考えさせられる深い世界にいざなわれた気がします。

 

後半に行くほど前編を思い出させるような人間臭さや生きることを掘り起こされ、表題の「火」とか「炎」が目の前にチラチラと浮かび上がり、やがてそれが大きなエネルギーに変わるような凄みを感じさせられました。そういう意味でもやはり村田作品は濃くて深い。

 

完結編ということですが、まだまだ行けそうなんだけどな。宮本輝さんの「流転シリーズ」のように、もう少し先まで書いて欲しいと思ってしまうのですが、ここで切り上げるのも潔くて良いのかな。