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【レビュー】美味礼讃:海老沢泰久

 美味礼讃:海老沢泰久著のレビューです。

美味礼讃 (文春文庫)

美味礼讃 (文春文庫)

 

 

 

◆辻静雄が連れて来たフランスの本物

 

誰でも一度は耳にしたことがあると思われる「辻調理師専門学校」。その創立者、辻静雄の半生を描いた一冊です。何も知らなければ「ふむふむ、学校を作った人ね」くらいの印象しかないと思いますが、本書を読むと、それはそれは大仕事をした人物だということが解かる。

調理師学校をここまで大きくしたという経営者としてのサクセスストーリーはもちろん凄い。しかし、さらに大きな彼の功績は、本物のフランス料理をこの日本に広めたということ。辻氏がいなかったら本場のフランス料理の味を我々日本人は知ることがなかったかもしれません。

そんな辻氏の前職は読売新聞の記者。一体どこでどう転んで料理の世界へ足を踏み入れたのだろうか。それは結婚し、妻の実家の跡取りとして新聞社を退職したことによって大きく変化したのです。いろんな意味でまっすぐで曲がったことが嫌い、そしてとことん極めようという性格である辻氏。努力を惜しまない根気強さと決断力も大変魅力がありますが、彼の最大の武器は人柄だと感じます。彼の周りには人が集まり、国内、海外ともに人とのつながりがどんどん広がって行くのです。特に通い続けたフランスの料理人たちとの交流は、最後の最後まで素晴らしい関係だということが窺えます。

半面、そんな辻氏に嫉妬する人々も多く、ビジネスの邪魔する者も出てきますが、まっすぐ突き進む辻氏に敵うわけがありません。男たちの裏での小競り合いは、大なり小なりビジネスの世界では見聞きしますが、こちらはかなり陰湿です。学んだ知識・技術を自分のものだけにする者、偉くなって勘違いする者、人を蹴落として伸し上がろうとする者、裏切る者、こういう人々はやはり自然に淘汰されます。

紆余曲折、色々苦労を重ね、ページを追うごとに学校の生徒の数が増えていく様子は面白くもあり、怖くもあるものでした。経営面では辻氏の強力な片腕ともいえる山岡亨の存在と功績は大変大きいものがあります。良い部下に恵まれたことも辻氏の運命を大きく左右したものであったと言えます

フランスへ何度も足を運び、大量のフランス料理を食べ尽す。ちょっと羨ましい気がしますが、限られた期間に食べまくるのは本当に大変そうでした。最終的には体を壊してしまい、辻氏は医者から食事制限をかけられてしまったのですが、跡取りの息子さんが育ってきているので、今後も安泰だと思われる辻調理師専門学校。

最近グルメな芸能人と言われる人が数多く登場していますが、「あなた、この本をお読みになったらそんな簡単にグルメなんて名乗れなくなるわよ。」と言いたくなります(笑)

書き切れませんでしたが、学校創立の様子、ビジネス展開、科目であったフランス料理、日本料理、中華料理、等々、本当にたくさんの料理関係の話が登場します。サクセスストーリー、ビジネス、伝記、グルメ、人間ドラマと言ったてんこ盛りの小説で、大変濃厚な読書時間になりました。

そうそう、TBSの『料理天国』も辻調理師専門学校ありきの番組。グルメ番組の下地を作ったのもひょっとしたら辻発信があったからかなぁとも思います。とにもかくにも、日本の食卓に変化を与えた辻氏の功績は大きいものであったのは確かです。