こうしてイギリスから熊がいなくなりました:ミック・ジャクソン著のレビューです。
本が好き!の献本書評です。
ロンドンの恥ずべき秘密、そこには熊たちの悲しい過去があった。
熊の出てくる本と言えば思い浮かぶノンフィクションや小説がいくつかある。
ほとんどが日本の熊たちで、ほとんどが狂暴で怖しい動物という形で登場する熊たちだ。だからきっとこの本に登場する熊もわたしを震え上がらせるものになるだろう…と気持ちを張り詰めて読み始めたわけですが…。
でもなんだか様子が違う。ページをめくるたびに熊たちの悲しい声が聞こえてくる。
特に印象的だったのは、熊たちに酷いことをしたロンドンの恥ずべき秘密として語られた「下水熊」。
我々人間が住む町の地下に熊たちが暮らしているなんてどう想像すれば良いのだろう。
19世紀のロンドンでは、熊を下水道に閉じ込め、報酬も与えないまま下水作業員、清掃員としてこき使っていたという事実があったのです。熊たちの役目は大きく、彼らがいなければ大雨でロンドンが水浸しになり、大気にはペスト菌が蔓延しただろうと言われている。
熊たちは地下に閉じ込められ、外に出ることも許されない、囚われの身。命の危険をもある劣悪な環境の中で暮らす熊たちの様子は酷いものではあった。そんな熊たちを救済しない人間、熊の大切にしていた物を騙し盗んだ人間までもいた。
この時代の熊がいかに人間に虐げられていたのかがよく解る。それと同時に階級社会と繋がるような話とも言え、熊がいつしか下層階級の人々の姿を浮かび上がらせるような不思議な読み心地を読者に運んでくるのだった。
そもそもイギリスには本当に熊はいないのだろうか?本書を読んでいるうちにやたらとタイトルが気になりました。詳しくは調べていませんが、イギリスでは本当に野生の熊はいないみたいですね。なるほど熊と人間の関係を皮肉って描いた寓話というのも納得。
他にも人の罪を背負わされた熊、サーカスの熊、精霊熊等々、これまで読んだ熊の話とは全く異なる雰囲気の話の数々でした。
本書を読んで、一番の驚きは本当にイギリスに熊がいないということ。パディントンやプーさん、ハロッズの可愛いベアたちにテディベアのぬいぐるみたち。イギリスには世界的にも有名な愛らしい熊のキャラクターがいっぱいいるではないか?こんな歴史があったからこそ生まれたのかな~と思うとなんだか切なく胸が痛むのであった。