ふたりぐらし:桜木紫乃著のレビューです。
感想 もどかしい愛のかたちではあるけれども.....
いつも通りキリキリ刺すような痛みを伴う作品かと思いきや、珍しくマイルドな展開でした。これがまたじわじわくる読ませるものがあり、またひとつ桜木さんの新しい一面を見たような気持ちです。
ある一組の夫婦とその周りの人々を描いたもの。元映写技師の信好と看護師の紗弓。
ふたりは夫の収入が不安定で妻が主な稼ぎ手として生活を支えている。
結婚は親にも祝福されず風当たりが強い。それゆえにどちらの両親とも疎遠になりがちだ。特に信好に対する義母の態度は冷たく、紗弓はふたりの板挟み状態に。
また、夫婦関係は妻の収入で生計を立てているということもありどこか遠慮がち。互いを思い合うあまり言いたいことをグッと呑み込むような距離感がもどかしい。
そこに親の死があったり病があったりと、たとえ疎遠になっているとはいえ、どうしても関りを持たなければならない状況が訪れる。そこで親たちの姿や話を聞いたりしながら少しずつ関係も修復されてゆく。特に妻の父親が見せる愛情深さは心にじわじわと沁みいるものがあった。
この本のどこが良かったと言われると、はっきり言えるものが実はない。だからこうしてレビューを書いていても一向に「ここだ!」と言う部分が書けずにいる。
でも読んでみればきっと何かじんわり来るものを感じます。
子が親と一緒に過ごした最後の日の切ない風景、親が子を遠くから見守る温かさ、思ったことを口に出せずにいる夫婦のもどかしい愛の形。その気配をそこかしこから感じられる小説なのです。
レビューはまとまりませんでしたが、個人的には桜木作品のなかでも好きな一作となった。こういった作風もいいな~と思う。
文庫本