嘘 Love Lies:村山由佳著のレビューです。
感想・あらすじ 誰もがあの日から苦しみの中に居た
白と黒、いわゆる村山作品に潜むこのカラー。今回は白でもなく黒でもなく、大変ニュートラルな作品であったなぁと感じました。これはとても良い意味です。
秀俊、美月、亮介、陽菜乃は仲良しの中学生。彼らは中二の夏に生涯決して忘れることはできない事件に巻き込まれてしまう。そして、その後彼らはあの夏に起きたことを心の中に閉じ込め、闇を抱えたままずっと生きていくことになる。
ある者は、自分の浅慮が皆を巻き込んだという自責の念を。
ある者は、自分がその日その場へその人を呼びつけた後悔を。
ある者は、長い間過去の傷を忘れられずのたうち回って来た。
そして、ある者は不本意な犯罪に走ってしまった。
誰もがあの日から苦しみの中に居た。
ネグレクト、ヤクザ社会との関り、暴力、犯罪、一見、平凡な中学生と交わりそうもない世界と徐々に繋がりが太くなっていく恐ろしさ。
そして各々の心の中にある複雑な感情と秘密。これらが大きな鍋に次々投入され、読者もまた得体の知れぬ恐怖がつき纏う状況へと落ちていく。
そこに青春時代の淡い恋心がちょっぴり散りばめられという部分もあり切ない気持ちもごちゃごちゃと揺さぶられたりと、なかなかややこしい感情との戦いも生まれます。
500頁越えの長編で内容的にも重いのでそう簡単に読めないと思っていましたがそれが全くって感じで、改めて読ませる力のある作家さんであるなぁと思いました。
村山さんの作品に対してはいつも辛口になっていたのも、なんとなくねっちりした女性像や人間関係に難癖をつけたくなっていました。今回は登場人物たちとそういった余計な感情のぶつかりがなかった分、とても素直に読めた気がします。
村山さん、プライベートで男性が変われば作風も変わるとひそかに思っている私。今はとても安定しているように感じます。ってそれこそ余計なお世話ですが作品からも感じられるな(笑)
文庫