泡:松家仁之著のレビューです。
人生のひとこまひとこまは、「泡」の粒のように消えては現れる
松家さんと言えば「火山のふもとで」がとても素敵な作品で、一気にファンになった作家さん。いつも次作を待ちわびている。今回も新刊欄にお名前があがったのを見て発売日を指折り数えて待っていました(笑)
発売日以外はなんの情報も見ずに読みはじめました。「泡」と書かれたシンプルな表紙からは内容が全く見えず。わくわくします。
主な登場人物は以下の通り。
兼定は海の近くでジャズ喫茶を営むシベリア抑留帰りの元復員兵。大叔父である兼定を頼りに、高校二年で登校拒否となった薫がしばらく居候することになった。
薫とほぼ同時期にこの喫茶店にやって来た男・岡田。この男の身元など一切分からなかったけれども、兼定はなんとなく気になる彼に店を手伝わないか?と声をかけ、彼もここに居つくことになる。
最初は兼定や岡田の話に気を取られていたけど、中盤から薫の存在が大きくなっていった。大人たちのすることを観察しながら店の手伝いや料理などの経験を積み重ねていく。その中から見えて来るもの、また、岡田つながりで知り合った女性たちと過ごすちょっとした時間の中で生まれた淡い恋心など、少年から青年へという過渡期の葛藤や、薫自身が抱えている問題が重なり合い、若者ならではの息苦しさが伝わって来る。
薫が患っている「吞気症」とは、ストレスからくること多いそう。緊張から空気を大量に吸い込み、それが頻繁におならとなって出てしまう。おならを我慢する、こんなことは人に言えないという悩みもあったのだが、薫は初めて岡田に打ち明け、「我慢しなくていい」と言われる。
本人の中でぐるぐると悩んでいることも、人と関わらなければ気づけないことはたくさんある。薫もいつもと違う人々との関りが増えることによって、なにかのスイッチが切り替わって行く。
この夏が終わるころ、薫が一人で行った小旅行が私にはとても印象的だった。民宿のおばさんがね、いいんだな、見守っている感がほんとに。蚊との闘いは大変だったけどね(笑)
ということで、なにがどうという着地点はない話です。なんとなく海に浮かんで漂流しているような、そんな揺ら揺らした小説でした。今回は3人の男性の話だからなのか?なんとなく作品に「色」がない。女性もチラチラと出ては来るのですが、全体的に殺風景といった印象でありました。
ちょっと期待しすぎちゃったのがいけなかったのか、ずっとくすぶっていた感じがしていたなあ。個人的にはシベリアの話は深く入り込めなかった。
登場人物たちのことを知ったようでもあり、結局なにも知らないまま終わったようでもあり、まさに泡のごとくって感じです。
次作はどんな設定なんだろう。そろそろ、都会の大人たちを描いた作品が恋しいかな(笑)




