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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー】砂に埋もれる犬 桐野夏生

 

 

 砂に埋もれる犬:桐野夏生著のレビューです。

砂に埋もれる犬

砂に埋もれる犬

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辛いのは本の中の人々なのに、渦中の辛さが生々しく伝わってきた

 

コロナ禍以降、特にこの1年は本当に読むのがしんどい小説が多かった。窪美澄さん、西加奈子さん、朝井リョウさん、そして桐野夏生さん。パッと思い出せるだけでも、これだけの作家さんたちが、かなりの熱量とボリュームで小説を書かれているなぁと感じる。どの小説も本当にリアルで容赦ない。

 

「砂に埋もれる犬」も間違いなくそんな一冊で、とにかく辛い。ずっと辛い小説であった。最初は主人公の母親が本当に酷い、酷すぎることに怒りがマックス、子供のみじめな状態に胸がキリキリと痛む。

 

しかし、読み進めるうちに、一体自分は誰の気持ちに乗っかって読めばよいのか、いや、誰かの気持ちに乗っかる必要はないのかもしれないけれども、それくらい気持ちがグラグラと不安定で、救いを求めて杖になる人を探してしまったほど。

 

物語は大きく2つの流れがあったと思う。前半は母親のネグレクト。男を転々と変え、子供を生み、生活が困窮。いろんな男性の家に転がり込んでは自分本位な生活を繰り返す。彼女には子育てするという意識はまるでなく、えげつないほど男に依存し子供を放り出す。残された子供は小学校にも通えない状態。食事すら与えてもらえず自力で生きている。こんな状態で勝手に育った二人の異父兄弟。その劣悪な生活は救いがなく途方に暮れる。

 

後半は長男が里親のもとで生活するようになったという展開へ。少しは明るい兆しか?と思ったのも束の間。今度はこの少年が転校先で問題を起こす。同級生の女子に抱く彼の気持ちが異様な形となって現われる。その行動の数々は、気持ちが悪かったり、でも彼の過去を考えると仕方がないのかもと思ったり気持ちが錯綜してしまう。そして、何か大事件になるかも?という不安もどんどん大きくなる。

 

それと同時に彼の母親の行方と、彼女の生い立ちについても触れられる。ここまでくるともう誰を責めたらいいのか?誰かを悪者にすれば少しは救われたのかもしれないけど、そうはさせない話に八方塞がりな気分にさせられる。

 

「親が親なら子も子だ」という言葉。私たちはこの言葉の意味を、いま一度考える機会になる。

 

そして、ラストは「やはり」と、思った通りの壮絶なシーンがやって来る。彼らがそのシーンで発した言葉が印象的だ。「うん、そうだと思う」。わたしも彼らと同じ気持ちで本を閉じた。