八月の六日間:北村薫著のレビューです。
山歩き、山登りは、日常や人生にとても似ている。
富士登山は死ぬまでに一度は・・・という話はよく聞く。
確かにそうだななーと思えど、あえて辛いことはしたくない甘ちゃんのわたし。富士山
は温泉でも入りながら眺めるのが一番だというところに落ち着く。
山登りと言えば冬山とか遭難とか高山病とか崖から落ちるとか、何かと八甲田山の映像
が浮かびあがり、怖いことばかり想像していた自分にとって本書はいろんな意味で山の
楽しさを教えてもらえた。
もちろん危険回避や自分の体調など十分な判断力が要されるが、なぜ多くの人々がこぞ
って山に向かうのか解る気がしました。
設定も良かったなーと思う。
主人公は40歳を迎える文芸誌の副編集長の女性。
仕事も恋愛も人並みに経験し、それなりに心身ともに疲れる毎日。
そんなわたしは友人の誘いをきっかけに山歩きの楽しさを知る。
そして、休みごとに山へ向かう生活を送るようになる。
山での人間関係や宿泊に関する様子など、なるほどこういう時間を過ごすのか・・・と
知る楽しさがあった。
今まで全く知らなかった者同士が同部屋で過ごしたり、温泉に入ったり、食事をした
り。彼女たちはあくまでも一期一会でさっぱりした関係。自分たちのペースというもの
を尊重しているムードに好感が持てる。
一方、「わたし」と友人とのメールは気軽で楽しいものがある。
「あずさ2号」の歌詞問題なんかは馬鹿らしいけど盛り上がる。
こういうの、自分たちもよくやるなぁーと親近感を持ちながらくふふと笑いがこぼれ
た。
主人公が山歩き前にする旅準備のシーンも好きだな~。
彼女は毎回数冊の本を山のお供として連れて行く。
どんな本を選ぶのか、章を重ねるごとに楽しみのひとつになる。
山は日常からとても離れている空間ではあるけれど、歩きながら日常を振り返る時間に
もなる。彼女は山で過去の日常を振り返り内省する。
山登りを始める適齢期なんてものがあるかは分かりませんが、仕事も恋愛も成熟し40
歳を迎えるひとつの節目、無理がきく体力がまだある年齢は山歩きをはじめるのに適し
た年齢のよう思えた。
主人公の彼女も日々色々ある。
心のバランスが上手く取れない日もある。
山歩き、山登りはそんな日常や人生にとても似ている。
山は自分を振り返ったり前に進めたりしてくれる場所なんだなぁーと、本書を読んでし
みじみ思った。
この感じは何かに似ている。...と考えていたら渓流の風景が蘇った。
私にとってそういう場所は川かも?とふと思った。