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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー・あらすじ・感想】猫と庄造と二人のおんな:谷崎潤一郎

 

 

 猫と庄造と二人のおんな:谷崎潤一郎著のレビューです。

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

猫と庄造と二人のおんな (新潮文庫)

 

 

 ♪逢いたさ見たさ病めるMy Mind ♪

 

これはもう猫様に仕えて、仕えて、仕えまくった人でないと到底書けない小説だなぁーと感じました。誰かに翻弄され、崩壊してゆく大人たちを描いたものとしてはいかにも谷崎なのだが、「うぉー!今度は猫に操られてしまうんだー」と、新鮮な驚きとともに、谷崎が愛おしい目で猫を抱っこしていた写真を思い出す。

 

困ったことに猫様の愛らしさとツンデレな感じを巧みな文章で余すことなく大放出されているものだから、危うく私までも猫様にメロメロになってしまいそうであった。

 

さて、主な登場人物は、猫を溺愛している庄造。別れた妻・品子と、現在の妻・福子、庄造の母。そして、猫様のリリー。

 

別れた妻・品子は庄造に未練があり、縁が切れてしまわぬようにと、庄造が溺愛している猫を引き取れば、いつか彼は猫に会いに自分のところへやって来るだろうと目論んで、猫を譲って欲しいと申し出る。

 

かたや現在の妻・福子は猫に夢中の夫を毎日見ていて、猫に嫉妬心がメラメラ。このチャンスに猫を追い出そうとする。当然、庄造は猫を譲りたくないが、夫婦喧嘩の末、品子に譲ることになる。どうせ過去の経験からリリーは逃げ出して戻って来るだろう・・・という淡い期待を持つのだが。

 

笑っちゃいますよね、猫に向ける各々の感情と目論見が、面白いくらいバラバラで。
一見、各自が猫様を都合よく利用しているかのように見えるのですが、そう上手くはいかないのです。ここからどんどんエンジンがかかってきます。

 

猫を引き取った品子は、初日から猫にそっぽを向かれ困惑。一時も目を離すまいと躍起になる品子。そうは言ってもこの関係は徐々に改善され、一緒の布団に入るまでになる感じはちょっと羨ましくもある。

 

さて、問題は庄造である。なかなか猫の様子が判らないゆえ、ついに逢いに行ってしまうのである。その様子はもうストーカーとも、恋する乙女とも言えるくらい、「猫(へ)まっしぐら」なのである。

 

 

 

猫に魅せられた男の行く末は・・・

 

私は猫を飼ったことがないのですが、猫って人間との関係が「密」というか、一対一での関係を好む、とても個人的な生きものなんだなぁと感じました。

 

もちろん家族の一員ではあるのだけれども、一人一人に見せる顔が違うというか…。
犬のようにわかりやすいタイプのものとは違うのですよね。

 

時に牝というか女を醸し出したり、時に無邪気な子供のように甘えたり。上手く言えないけれど、男性と女性といるときの顔が違う。そんな気がするのです。

 

だから自分だけに見せる猫の顔を知ってしまった庄造のような男性の気持ちも解らなくはない。ましてやそんな猫様と無理矢理離れ離れにさせられてしまったわけだから、どんどん猫への想いと妄想が膨らんでしまうんですよね。

 

妻に内緒で逢いに行くコソコソ、ソワソワした感じは、まるで上司や同僚に内緒のオフィスラブ進行中な人のようにも見える。

 

しかし、お土産の鶏肉を片手に何時間も雑草のかげにつくばいながら、リリーが出てくるのを待ちわびる庄造の姿は、そこはかとなく滑稽で哀しいものを感じずにはいられない。

 

そうそう、この感じ、この感じ。何かに振り回され、変なことをしちゃっている人に感じる滑稽さと哀しさ。谷崎文学の中で私はたくさん目撃をしてきた。そう、この壊れた人々こそが、谷崎文学での典型的な愛すべき人々なのだ。

 

果たして庄造の想いは伝わり、愛しのリリーちゃんに逢えるのでしょうか。

 

「リリー、リリー」甘ったるい庄造の声が遠いところからかすかに聞こえて来るような切なさが残る。

 

余談ですが、この小説を読んで思い出したのは、コレットの「牝猫」と 、江國香織の「ぼくの小鳥ちゃん」。ペットが人間の恋愛に介入してくるような小説。万国共通、こういうパターンはいつの時代も結構あるものなんですね。

 

さて、7冊読んで、私の心境もだいぶ変わったように思える。変な主人公たちに最初は呆れたりしてたけれど、最近は、なんだかとっても温かい目で見られるようになってる。
情けない感じもまるごと受け入れ、変なまま突き進んで欲しいと勝手に願っている。見守っている。(笑)

 

※サザンの「逢いたさ見たさ病める My Mind」の歌詞が、 庄造の気持ちそのもののようで笑えます。(歌詞)➔ http://www.kasi-time.com/item-6195.html