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*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【レビュー・あらすじ・感想】卍(まんじ):谷崎潤一郎

 

 

 卍(まんじ):谷崎潤一郎著のレビューです。

卍(まんじ) (新潮文庫)

卍(まんじ) (新潮文庫)

 

感想

スライド方式的に関係性が複雑に

 

まったく谷崎の引き出しの多さに驚かされます。今回はページを開くと、いきなり話し出す女性が一人。滑らかな関西弁についうっかり乗せられて・・・。

 

夫と上手く行っていない妻・園子。昼間の退屈な時間を埋めるために、美術学校に通い始めた園子は、そこで徳光光子という美しい女性と出会う。

 

ここからが変な話なのだが、その学校で園子と光子は同性愛ではないかというなんの証拠もない噂を立てられてしまう。

 

そんな噂から二人は接近し、な、なんと本当に同性愛へ・・・。このあたりの強引な展開はなんですが、さらに歪んだ世界へと誘う谷崎。

 

この二人の付き合いを知ってしまう園子の夫。
さらに光子にもいいなづけがいるというバイセクシャルが判明。

さぁさぁ、どうなる?どうなる?

 

 

 

 

光子をめぐって、いいなづけの綿貫と園子が争うのかと思いきや、ふたりは光子を他人に渡さないよう結託する。この婚約者、最初からどうもインチキっぽい印象がある。
そんな男が、細かい内容の誓約書を作り、園子と姉弟関係を結ぶ。そして、それがまた夫にバレ・・・・。

 

というように、スライド方式的に問題を盛り込んで来る。特急列車に乗ってしまったかのよう、途中下車ができません。いや、自ら止められないとう状態に。

 

目まぐるしく展開されてゆくのだが、この話は最後の最後まで気が抜けないのである。
そして、最後に来て「はぁーー」な結末を迎えるのです。

 

愛のかたち、カップルの組み合わせは想像以上に多そうだ

「卍」は光子という女性に虜になった3人の人物が振りに振り回されるといった内容で、その過去の出来事が、園子のなめらかな関西弁での独白という形で進行する。文体は次から次へと流れ落ちてくるような美しいリズムがあり、ページにびっしり文字が埋まっている。

 

性描写も思ったより少ない。なのにエロチックな印象を誰しもの心に残すところはやはり、描き方が巧みなのだろう。

 

谷崎の作品はまだ3冊目だけれど、何かのネジが一本外れて、そして崩れてゆく人間の心理や、崩壊ぶりがとてつもなく滑稽であり怖いと感じる。本書も光子の魔性に操られ、最後の最後まで吸い取られてゆくような・・・。一度は園子も光子から離れるのだけれど、気づけばまた巻き込まれる。ゾンビのような光子の存在はとても恐ろしい。けれど、読んでいる時はそんなことはあまり感じない。

 

 

 

愛のかたち、カップルの組み合わせって、私が想像する以上にまだまだたくさんあるものだなぁーと谷崎文学を通して思うところは多い。

 

めくるめく展開にヘビーなラスト。なのに読後感はむしろカラッとしている。謎だ、谷崎作品!

 

さて、今回は中央公論新社の方で読んでみました。こちらは、映画に出演した若尾文子、岸田今日子が、谷崎と対談した内容が載っています。へー、おっちゃん、こんな風に話すのか・・・。まだ生きているんじゃないの?って、思ってしまうほど、なんだか身近で聞いているような生々しい対談でした。

 

次はどんなカードが用意されているんだろうか?最初の頁をめくる手が少し笑うあの感じ。ほんといつも谷崎先生には愉しませてもらっています。