火花:又吉直樹著のレビューです。
あまりにも騒がれすぎている小説「火花」
又吉さんのエッセイは本当に楽しく、クスクス笑いながらあっという間に
読み終えてしまったものだが、さて小説となるとどうだろう?
あまりにも騒がれすぎている小説「火花」。
たぶんきっと、この話は又吉さんのこれまでの足跡をなぞったものなんだろうけど、この題材を選ぶのなら、もっともっと熟成させてからでも良かったんじゃないかとも思う。又吉さんがもっと年齢を重ねてからでもって。
芸人さんって瞬間的にドカーンと人を笑わせることが大切なことから、瞬発力に長けている方が多いと思う。又吉さんのエッセイからは、そんな笑いの連発とユニークな発想に魅せられた。
小説は瞬発力より長期的に読者を引き込む持久力みたいなものが必要なわけで、そこを問うてみると疑問が残った。
内容は売れない芸人の僕と、同じく売れない芸人の先輩との日々を綴ったものだ。年中ツルんでいた二人は飲みながら、歩きながら、漫才や生き方について論じ合う。やがて、後輩である僕のほうは売れ始めるのだが、先輩は借金を抱え転落してゆく。
・・・といったもので、大きな波乱はなく、淡々としたムードだ。
ラストは意外性を出したかったのか?
先輩の変わり果てた姿は大きな見せ場だったのかもしれない。
幸先が良さそうな未来、ぶっ飛んだ感じは、ひょっとしたら西加奈子さんの影響か?
でも、何かが違う。圧倒的に押し寄せるものがない。
深い感想が自分の中でこれ以上湧いて来ないのが残念なところだ。
....と、辛口になってしまったが、それもこれも又吉さんのエッセイや書評のファンであるがゆえにその落差に戸惑ったからだ。まっさらな状態でこの本を読んだらどうだったのだろうか。
売り上げも順調らしいし、本屋さんへ行けば目に留まる場所に堂々と積み上げられている。そして賞レースの候補にもなっている。おそらく2冊目も執筆されることであろう。
「面白かったけれど、問題は次よね。次の作品がどうかってこと。 続けるのは大変よ」書店員さんとお客さんの会話が聞こえてきた。私も大きく頷く。
個人的にはショートショートのような作品の方が、又吉さんの独特な雰囲気がもっと活かせるのではないかと睨んでいる。…なんて余計な心配もいらないくらい、世間の評価はどこまでも高い。取っちゃうかもね、芥川賞。