月と散文:又吉直樹著のレビューです。
☞読書ポイント
感想 覗き穴から見る先には.....。マッタンの行動はやはり面白い
やっと、やっと、又吉さんのエッセイが!首を長くしてお待ちしておりました。あまりに待つ時間が長すぎたものだから、もうエッセイは書かないのかな?と諦めていたところ。新しい本を開いたら、早速、独特な又吉ワールド全開。マッタン(又吉さんのあだ名)健在で嬉しくなる。
今回のエッセイは又吉さんの自分語りに近いものと感じました。どんな家族のもとで育ったか、学生時代はどんな友達がいたのか、仕事をするようになっての人間関係、読むこと、書くことなどのこだわり等々、又吉さんの日々のことがたくさん詰まっています。
特に家族の様子を見ていると「あーなるほどなぁ」と感じさせられるものが。なにがどうって説明はできないけど人間味があふれている。お父さんが自転車屋さんで試し乗りをしたきり戻って来なかった話からは今の又吉さんの姿と重なるし、あまりとやかく言わないお母さんの優しさは、今の又吉さんに通ずるものを感じます。
エッセイを読んでいると、これは作り話なのか?それとも実話なのか?と戸惑うこともしばしば。大半はあることから派生した又吉さんの妄想みたいなものなんだけど、これがまた独特で。しかし、妄想も長くなりすぎるとちょっと心配にもなる。もうええやんって。
又吉さんがちょっと口が重かったりするときは、頭の中は全開で動いているんだろうなぁということが判る。芸人さんの中で大人しいというイメージがあるけど、これだけ頭の中で喋っていればそうなるわな、と納得。とにかく頭のなかのお喋りはとめどない。
Uber eatsとかの配達員さんの行動を、覗き穴から息を殺して一部始終見ているマッタン。このあたりのねっちりした行動はちょっと不可解だけど、なんとなく彼らしい感じがして思わずにやけてしまう。
コロナ禍に書かれたものも多く、ひとり孤独な時間、誰とも話さない日々の焦燥感や、お父様やお祖父ちゃんがこの時期に亡くなったとのことも綴られていた。また、相方の綾部さんのこともチラッと書かれている。コンビが居ない寂しさはやっぱりあるんだな。....けど、そんなことは我関せずの綾部さんからの電話は笑える。いいコンビです。
又吉さんのラジオ番組はよく聴いている。まさに私も「あとは寝るだけの時間」に聴く。番組のメンバーはかつて一緒に暮らしていた3人組(サルゴリラ児玉さん、パンサー向井さん)。いつもあんな感じで家のリビングでおしゃべりしていたのだろうなぁということが伝わって来る仲の良さ。本書にも彼らのことが書かれています。
また、学生時代から続いているお友達の話なんかもいい感じの距離感。楽しい話がとめどなく出て来る。又吉さんって人見知りな印象を勝手に持っていましたが、決してそうではない。むしろ付き合いがいい人なんですよね。だから男友達も多い。
さまざまなエッセイの終わりごろに「月」が見え隠れする。夜の散歩、月と一緒に歩いている....そんな感じがすごく似合う又吉さん。きっとものすごくロマンチストでもあるんじゃないかと感じました。
恋愛のことはどうだろう。一緒に歩く女性はいつ現れるか?魂を解放したいときにそばに居てくれる女性が早く現われますよう静かに見守りたいと思います。
そしてわたしは今晩もラジオを聴く。マッタンの声だけやっぱり聞こえにくく、ボリュームを上げた。
又吉直樹プロフィール
1980(昭和55)年、大阪生れ。吉本興業所属のお笑い芸人。コンビ「ピース」として活動中。2015(平成27)年、「火花 」で芥川賞を受賞。他の小説に『劇場』『人間』、エッセイに『第2図書係補佐』『東京百景』などがある。(新潮社・著者プロフィールより)
装画・表紙絵
装丁画、すごくいいよね。松本大洋氏が描いたそうよ。
「月と散文」特装版
後で知ったんだけど、月と散文は特装版を限定販売したそうなの。すっごく素敵なんだけど、定価15,400円(税込)なんだって。一度、現物を見てみたいなぁ~。写真は角川のサイトで見られます。
月と散文 試し読み
KADOKAWAのサイトで少し読めるみたいですよ。
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最高に好きなエッセイ。本書にはこの装丁が一番良い!又吉さんがよく行く下北のヴィレバンで購入しました。