Web Analytics Made Easy - StatCounter

うずまきぐ~るぐる 

*** 新しい本との出合いがきっとある★書評ブログ ****

【感想・あらすじ・レビュー】人の砂漠:沢木耕太郎

 

 

人の砂漠:沢木耕太郎著ののレビューです。

☞読書ポイント 

その昔、大人の世界はどんなことが起きていたのか?人々はどんな生活を営んでいたのか?たとえば、屑を集める人たちは何を見て、何を感じながら日々生きていたのか。細かく細かく焦点を当ててみると、そこには壮大な物語が待っていた。

 

 

人の砂漠 (新潮文庫)

人の砂漠 (新潮文庫)

 

感想・あらすじ 

本書は1980年に出版された少々古い時代の話になる。と言っても44年前ということで、私が全く知らない時代でもない。自分と同じ時間をどこかで生きていた人々のこと、もちろん知らんふりしてしまうこともできるわけだし、知る必要もないのかもしれない。けれども、自分がまだ成人する前の大人たちの世界は一体どんなだったのか?自分が大人になって振り返るのも決して悪くないものだなと感じました。

 

8編のルポルタージュ。どの話も濃厚で一編あたりのボリュームが結構あります。それだけ細やかに取材をされていたということが分かる。当然のことながら筆者の沢木さん、とてもお若い(当時20代)。とにかく日本全国あらゆるところに足を運び、時にそこに寝泊まりしながら取材を続けている。

 

 

 

 

「人の砂漠」というタイトルのまんま、本を開くと途方もなく広く乾いた世界が広がっていた。なにせしょっぱなから「餓死したひとりの老女の隠された過去を追う」というハードな話から始まる。

 

何も知らない人の過去を掘り起こすことは、どれほど骨が折れる作業であるか。読者の私自身も老女の謎に迫ることに好奇心がそそられたのも確かだが、それより沢木氏がここまで動いて、書くということに執着した原動力は一体何なんだろう?ということにむしろ興味が湧く。これはまるまる一冊、どの話にも付いてまわった疑問です。

 

元売春婦たちの養護施設に寝泊まりして過ごしたり、与那国島の話は、島の歴史を含め、台湾との関係等々知らなかった話が盛りだくさん。そして、南から今度は北へ、ノサップ岬。ロシアとの関係が見えて来る。そうこうしていると次は江戸川の瑞江へ。「仕切場」と言って「屑」を集める世界で働く人々の話が登場したりする。

 

個人的には、一番最後の高齢女性の詐欺師の話が面白かった。

いかにも裕福であることを匂わせて、詐欺に励んでいた女性。彼女が逮捕されるまで、どんな人間関係があったのか等々、なかなか目の離せない展開です。やはや人間が存在する限り、こういう詐欺を働く者も消えることなく存在するものだと思い知らせる。そして、簡単にその言葉を信じてしまう人々も同じ数だけ存在するということも。

 

 

 

 

日本全国目まぐるしく移動して行きますが、ひとつひとつの話は時間をかけて丁寧に取材されているので、読み応えは半端じゃないといったところです。沢木氏20代の作品。この時代、世の中にインターネットもなかったわけで、今なら簡単に手に入る情報も、足を運ばないと知ることが出来なかった。

 

スーパーで売られている野菜を買うんじゃなくて、自分で現地に出向き、自分の手で土から野菜を引っこ抜く。だからこそ新鮮なものが手に入る。沢木氏の行動はまさにこれで、だからこそ40年以上時間が経っても、内容の鮮度は落ちることがない。とても生々しい。そしてなにより薄っぺらさがまるでない。自分で見聞きして感じたことだという重みが、ずっしり伝わって来る。

 

沢木氏出発点とも言える「人の砂漠」。その後の活躍は言うまでもない。沢木氏の原点を知るのに本書は最適な一冊とも言える。ファンの方、必読です!

 

沢木耕太郎プロフィール

1947(昭和22)年、東京生れ。横浜国大卒業。ほどなくルポライターとして出発し、鮮烈な感性と斬新な文体で注目を集める。『若き実力者たち』『敗れざる者たち』等を発表した後、’79年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、’82年には『一瞬の夏』で新田次郎文学賞を受賞。常にノンフィクションの新たな可能性を追求し続け、’95年、檀一雄未亡人の一人称話法に徹した。(Amazonより)

合わせておすすめ

藤圭子さんとの対談が秀逸。沢木さん、何年たってもコミュニケーション能力がある方だということが解る。

www.readingkbird.com