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【感想・あらすじ・レビュー】タイガー理髪店心中:小暮夕紀子

 

 

タイガー理髪店心中:小暮夕紀子著のレビューです。

☞読書ポイント 

哀しい出来事、辛い体験、恨みや後悔、人は死ぬまでそれを抱えて生きるということを痛いほど知らされる小説。高齢になっても、認知症になってもずっと続く。

 

感想・あらすじ 

 

タイガー理髪店心中

タイガー理髪店心中

 

はじめて読む小暮さんの作品でした。本書は「タイガー理髪店心中」と、「残暑のゆくえ」の2作品、中編で程よいボリュームなので初めて読むのにちょうどいい感じでした。読む前に内容を探ってみたら、世界が歪みそうな老人を描いた作品っぽかったので、これは村田喜代子さんの作品に近く好みかも?と思い読むことにしたのです。

 

ふたつの作品、どちらも雰囲気が似ている。平凡で穏やかに見える日常に、ひょっこり過去が蘇えり、悲しみや憎しみの感情の波に揺さぶられながらまた日常へ.....みたいな展開。しかし、そこで垣間見るシーンが結構ハードなものだったりする。

 

 

 

「タイガー理髪店」は老夫婦が昔から営む理髪店。今は客の数も減り誰も来ない日も。夫の寅雄は83歳。妻の寧子は認知症は進行しているようだ。二人にはかつて、ひとり息子の辰雄がいたが、山の上に掘られた穴に落ちて亡くなったという悲しい過去がある。

 

日中の淡々とした場面が、暮れると何か殺伐とした雰囲気が漂い始める。認知症になっても決して消え去らない哀しい記憶。妻から発せられる言葉はちょっと鳥肌が立つようなすごみがあった。

 

 

 

 

「残暑のゆくえ」も、高齢者夫婦の話です。こちらは食堂を営んでいる。主人公の山田日出代は75歳。夫の須賀夫はもうすぐ99歳。日出代はかつて満州から母親と引き揚げて来た経験を持つ。当時、母に言われた言葉は、今でも日出代を混乱させる。

 

夫の須賀夫もまた、かつては満州の復員兵で、夜中に叫び声を上げるほどつらい過去を持つ。普段は穏やかな夫であるが、どうしても忘れることのできない過去が悪夢となって蘇り....。

 

ふたつの話には、人の心の奥底に沈んでいる鉛のような重い過去を手繰り寄せては再び傷つくといった苦しさがあった。特に我が子の死や、戦争にまつわることでの傷は、死ぬまで決して癒えることがないことなんだということが、痛いほど伝わって来ました。人はこうして老いても答えのない出口を彷徨い続けるものなのか....。そんなことをつらつら考えながらの読了でした。

 

ということで、本作は小暮さんのデビュー作だったのです。ちょっとびっくりです。2020年に出版されたようなので、デビューしてまだ日も浅い。ってことは、これから新作が.....そろそろですかね。楽しみに待つことにします。

小暮夕紀子プロフィール

1960年岡山県生まれ。岡山大学法文学部卒業。2018年「タイガー理髪店心中」で第四回林芙美子文学賞を受賞しデビュー。家族は夫一(Amazonより)

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こちらも小暮さんの作品。第14回グリム童話賞 大賞受賞作品ってことですが、ひょっとして出す本出す本、賞を取り続けているって感じですよね?それにしてもこのタイトル、ちょっと面白すぎじゃないですか?(笑)絵本のようですね。内容がまったく想像できない!知ってしまったからには早く読みたい~~。