始まりの木:夏川草介著のレビューです。
☞読書ポイント
旅のはじまりは「藤崎、旅の準備をしたまえ」から
「民俗学」というワードで飛びついた1冊だったのですが、自分の想像していたものとちょっと違ったかなぁ~。もう少し、民俗学に焦点を当てたものかと思っていましたが、実際はその研究をしている人々の話のほうが厚めに感じました。
東々大学院生で民俗学を専攻しているの藤崎千佳と准教授の古屋。「藤崎、旅の準備をしたまえ」という言葉とともに、この二人の旅が始まる。行く先は全国、民俗学に関係のある場所。
とにかくこの古屋という准教授の偏屈ぶりが際立つ。足の悪い古屋はステッキをつきながら歩く。そんな古屋の荷物持ちとしてお供する藤崎。古屋の皮肉や口の悪さが本当に憎らしいのだが、たまに深いことを語る。そんな相対する古屋の言動が徐々に魅力になって行く。
ゆく先々での人々との出会い、アクシデントを交えながら物語は進むわけだが、そんな中に不思議場出来事がちらほら登場する。特に印象的だったのは京都の「七色」という話。ここで出会った青年の話は切なくもあり美しい。この章を読めただけでも満足かな。
この口の悪い教授、最後まで好きになれなかったけど、いくつか大切なことを言っている。自分の足で歩いて知ることの大切さや、無駄と思われることを学ぶ意味とか、科学は万能ではないことなど、学ぶことの原点を藤崎だけではなく、われわれ読者にもしっかりと伝えている。
藤崎もまた「民俗学」を学ぶ意味を模索しているのだが、この古屋と旅を重ねるごとに、様々なことを彼から学び取り、自分のものにしていく様子が窺えます。
本書は民俗学に限らず、「自分は何のためにこの学問を選んだのか?」「何のために勉強しているのか?」など、疑問を持った時に読むときっと力になってもらえる一冊だと思う。
ということで、まだまだ旅は続けられそう?続編がきっとあるんじゃないかと、静かに待機しています(笑)
【つなぐ本】本は本をつれて来る