官能記:芦原すなお著のレビューです。
蛇行しながらも、行くべきところへ辿り着く人生
ちょっとタイトルがなんですが、内容は女性の半生を描いたもので、めくるめく官能の世界というわけでない。
芦原すなおさんの作品を読むのはこれで3冊目。「オカメインコに雨坊主」はちょっと不思議な読み心地だったが、心にじんわり残る作品。「官能記」は全く異なった雰囲気ですが、これがまたあとにじんわり心に残るものになった。
昭和25年、両親のいないみーこは親せきの家で暮らすことになった。親戚姉妹や母のいじめなど、決してみーこの生活は安泰ではなかったが、いつかこの家を出てゆく日を夢見て逞しく育つ。
重苦しい内容になりそうなものの、すこし変わっているけれど、見どころの多い人間臭い人物が登場する。彼らはみーこの人生の節々を作るかのように、現れては消えてゆく。本書の面白みは、彼らの活躍による部分が大きい。
そういった意味で、天涯孤独なみーこが思っていた「わたしはこの世界に何の借りもない」という言葉は、決してそうではないことが感じられる。特に、みーこが働いた病院での生き生きとした日々は、これまでの生活が一新して、読んでいるほうも楽しかったな。
そして人間の性。
決して嫌らしいという描き方はされていない。生きている限り人間が関わっていく本能なるものが、ほんのり可笑しく、ほろ苦いテイストで描かれている。
淡々とした語り口調の中に伝わってくる人の温かみ。そして、後半、幼馴染みの捨吉の登場。
あぁー、人生って蛇行しながらも、行くべきところへ流れ着くものだぁ・・・と、しみじみ感じ入るラストであった。
芦原すなおさんの作品は、たくさんの顔がありそうです。
未読のものがまだたくさんあるので、追々読んでいきたいと思います。