抱擁 :辻原登著のレビューです。
少女には見えて、わたしには見えない誰かとは?
ミステリー小説なのでしょうけど、ふわふわとした浮遊感とずっと微熱状態が続いているような読み心地。がっつり原因を追究するというより雰囲気の中を漂いながら物語の核心を探していたような読書でした。
昭和のはじめ。舞台は駒場にある前田侯爵邸。
美しい広大なお屋敷で、18歳のわたしはご令嬢の緑子の小間使いとして働くことになった。女中とは違い小間使いは令嬢のお世話係といった感じで、寝起きを共にし、まるで姉妹のように生活をしています。
緑子はわたしにすぐ馴染んでくれたものの、やがて彼女の奇妙な行動に気づく。少女は誰もいないところをじっと見ていたり、夜中にこっそりどこかへ消えてしまったり・・・・。たまに見せる彼女の挙動に何かあると思ったわたしはその真相を探る。
以前ここで働いていて亡くなった小間使い「ゆきの」の存在や、お屋敷で働く人々の秘密を抱えているような様子が謎を深め、ひんやりした空気を漂わす。
また、「わたし」の淡々としたひとり語りがより一層読者を文章の奥へ奥へと惹き込んでゆく。
そしてラストに受ける衝撃!
ずっと夢の中に居たような気持ちで読んでいたら、いきなり耳元で目覚まし時計が鳴ったかのような「はっ!!」とさせられる一文が待っていたのです。一瞬、なにがなんだか?状態に陥りました。
お屋敷ものはいいなぁ。
好みはあるでしょうが、個人的には好みの世界でした。
本書はヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』がベースになっているとかいないとか?
こちらもちょっと気になっているのでいずれ読んでみたいと思います。