月下上海 :山口恵以子著のレビューです。
重箱の隅をつつかせていただきます!
「松本清張賞受賞作」と言うことで、重みのあるミステリーかな?設定といい、時代背景といい、私の好みっぽい…と、あちこちのマスコミからの情報で早く読みたい!!と、楽しみにしていた作品。
それに、何といっても「賞金は全部酒へ」と、言い放った山口さんの潔さからただ者ではないなと。
丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務するかたわら、小説を執筆されてきたという。この経歴と豪快な発言に「こんな豪快な女性が書く作品だもの。きっとキレの良い作品に違いない」という私の思いこみはいかに…?
で、、ですな…期待しすぎちゃったかな?設定は良いのだけど、読んでも読んでも、なにも掴めないというか、ペランとした感じなのだ。
それでも、途中から大きく展開するのか?とか、最後にどんでん返しが来るかも?と、いつか山場が訪れるだろう…と思って読んでいたが、来ないんですよねぇ。一番、消化不良を起こしやすい内容でして…。
財閥令嬢・八島多江子は昭和17年に上海へ渡り、そこで、憲兵大尉・槙庸平に出会う。二人が親しくなって来た頃、多江子は槙から「民族資本家・夏方震に接近し、重慶に逃れた蒋介石政権と通じている証拠を探すように」と強要される。
そんな危険な依頼は断ればいいものの、彼女には断れない秘密があった。それは、結婚後に起きたスキャンダル。(多江子は過去に結婚していた)彼女はこのスキャンダルを利用して人気画家になったという過去がある。その事件の真相を握っている槙庸平は多江子の弱みを利用して従わせる。
やがて多江子は夏方震に接近に成功するのだが、彼の人柄に触れ惚れてしまう。そして、夏方震もまた多江子を好きになり結婚への道を歩もうとするのだが…。
そこにきて、またしても槙庸平が動き出し、二人は離れ離れへ。とりあえず夏方震の命だけは守ることに成功した多江子。
だが、油断していたところ、多江子は槙庸平に犯されてしまう。それだけでではなく、元夫が出て来たり。なんだか気持ち悪い展開なんだな。
どこに焦点を当てて読めば良いのかな?というか、登場人物の意図していることや気持ちが全く理解できない!ぐわぁ。
さらに重箱の隅をつつくようで申し訳ないが、性描写も雑だし、お嬢様を描くのならもっと会話から匂い立つような優雅さが欲しいと勝手に思ってしまった。
上海の街の様子もいま一歩、伝わって来ない。ファッションだけはキッチリ描写されていた。お化粧は綺麗にしてるけど、中身なし的な違和感がずっとあった。全体的に丁寧さが感じられないのだなぁ…。
など、残念な感想になってしまいました。でもね、こういう設定は面白いと思うのよ。山口さん、もっと作品を書き続けて深みが出て来た時には、きっと大きく化けると思うのです。
これだけ言ってるからもう二度と読まない作家になってしまったのか?と訊かれれば、実は全然そんなことはありません。本当に合わなかったら書評すら書けませんもん。偉そうなことばかり言って悪い読者です。でも、今後も期待したいので。切実に。