怪談のテープ起こし:三津田信三著のレビューです。
あの通りにいつもいるあの女。ほとんどが黒目で白い部分がないって・・・
怖い話は絵本から実話までさまざまな形式で世に現れるけど、
個人的には短編集よりもじわじわと怖さが実感できる中編や
長編ものが好きです。
「怪談のテープ起こし」は自分にとってほどよい長さの話で
長くもなく短くもなく丁度いいあたりで話が終わる。
怖い話はこの「長さ」のさじ加減って結構大切だと感じました。
それから話に入ってゆくまでの「助走」部分がなんといっても
本書は充実している。どの話も作者と編集者の打ち合わせ
シーンからはじまる。
どうしてこのような話を書くことになったのかなどの
経緯が語られる部分はすぐに本題に入るのと違い、
読者を「おあずけ」状態にさせるという効果がある。
このあたりの演出がなんともニクイ!
そして著者である三津田さんご本人の名前が登場することによって
「実話?作り話?」と何度も何度も考えさせられる場面に出合う。
このあやふやな状態は最後まであやふやなままで、
しかも、最後のページの筆者が読者に伝えた言葉が
もうなによりも怖かった。
「黄雨女」はひと昔前の「口裂け女」を彷彿させられるような
話だった。
真っ白な厚化粧、突出した目ぇ。
その目はほとんどが黒目で白い部分がない。
雨支度をしているのか、すべてが黄色。
そんな女がいつもあの通り道にいる・・・・
主人公はあの手この手を使って、この女を見ないように
回避するのだが・・・。
「●●公園に出るらしいよ」
そんな噂を聞きつけ「口裂け女」を本気で怖がって
その公園をさけていた子供時代を思い出す。
「口裂け女」は今となっては笑って話せる思い出だけれども、
この話を読んで結局またビクビクしちゃったりして、
なんだかなぁ・・・と。
6編の話に共通するのは「水」。
たまたまなのか、必然なのか。それすらも
あやふやなまま幕は下りる。
そして三津田さんの残したメッセージに凍り付く。
ちょうど台風シーズンで外は盛大に雨が降っているときに
読んでいたことに気づき、思わず本を見えない場所へ
そっと遠ざけてしまったことはここだけの話です。