ジャングルジム:岩瀬成子著のレビューです。
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筆者について
岩瀬成子(いわせ じょうこ)
1950年、山口県生まれ。77年、デビュー作『朝はだんだん見えてくる』(理論社)で日本児童文学者協会新人賞受賞。また、その後の作品にて、路傍の石文学賞、野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞大賞、坪田譲治文学賞などを受賞。 著書に、『だれにもいえない』(毎日新聞社)、『まつりちゃん』(理論社)、『オール・マイ・ラヴィング』(ホーム社)、『地図を広げて』(偕成社)、『もうひとつの曲がり角』(講談社)、『あたらしい子がきて』『ひみつの犬』(以上 岩崎書店)などがある。
網中いづる(あみなか いづる)
1968年、宮城県生まれ。イラストレーター。99年、ペーター賞、2003年、東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)公募プロ部門大賞、07年、講談社出版文化賞さしえ賞などを受賞。絵本に『ふくはなにからできてるの?』(佐藤哲也/文 福音館書店)、装挿画に『だれにもいえない』(毎日新聞社)、「プリンセス・ダイアリー」シリーズ(河出書房新社)、『三つ編み』(早川書房)などがある。大分県立芸術文化短期大学美術科デザイン専攻非常勤講師。TIS会員。
感想:家族問題を解いてくれるのは、子どもたちかもしれない
網中さんの絵が好きで知った1冊。装丁画から、子供たちの無邪気な世界を描いた作品なんだろうと思っていたけど、読み進めていくと、ちょっとした家族問題をリアルに描いた内容であることがわかって来る。
子どもの目線で家族問題を見ているので、いわゆる「大人の事情」をストレートに表してはいない。しかし、大人が読めばどういうことなのか察することが出来る分、子どもが抱く複雑な心境が透けて見え、胸がギューっと締め付けられる場面が多かった。
5つの短編集。
「黄色いひらひら」では、久しぶりに会ったおじさんの話。おじさんは数日、ぼくの家に泊まることになった。おじさんは定職を持たず、色々なところを車で移動しながら生活をしている。うちに来たおじさんは食欲旺盛、寝ては食べの生活。
そんなおじさんを心配しておとうさんはあれこれ言っているようだけど、おじさんは我関せず。ぼくと散歩やドライブに行ったりする。そこで起きた出来事を、子どもなりの視点で見て感じ、何かを見つけ出す。
いわゆるピーターパンシンドローム的なおじさんで、大人から見れば早く働きなさいと言いたくなる存在なんだけど、そんなことを子どもは知る由もない。しかし、一緒に過ごすことで、おじさんがなぜその生活を選んでいるのかということに気づく。
社会の型にはまらなくても、こういう生き方もあるということをうっすら少年は感じ取ったのだろう。この物語で大事なのは、大人たちに言われたり、聞いたからではなく、自分で感じ、考えたこと。反面教師じゃないけど、おじさんの存在が、少年の視野をひとつ広げた話でもあった。
「からあげ」は、おじいさんとの同居を考える話。いわゆる「お試し宿泊」で、おじいさんと数日間同居することになった家族。一人加わると、生活のリズムも変わり、一家はバタバタするのだけど、孫とおじいさんの関係は少しずついい感じになっていく。孫との関係を通して、やがておじいさんは自分なりの決断をする。
この話も、どこの家庭でも起こり得る内容。独居老人の心配から同居を考えるわけだけど、果たしてこれはベストな状態なのか。各々にとってどんな形の生活が幸せなのか。そんなことを考えさせられる話でもあった。
その他、姉妹の話、両親が離婚して父親と生活している少年、父親の死が受け止めきれない少女の話など、家族の話が登場する。どの話もよくある話ではあるけれども、子どもたちの気持ちを、繊細に描くことによっておとなも夢中になれる内容であった。
というわけで、表紙の感じから気楽に読み始めたけど、内容は全く気楽ではなく、むしろ現代家族の在り方等を切り取った内容に思えました。児童書ですが、全世代向けだと感じました。
りすさんからのnext本
「ジャングルジム」の家族のはなしを読んでいて思い出したのは、窪美澄さんの「夜に星を放つ」。この本も、両親が離婚した少年の話とか、家族の死などの喪失を描いた作品が多いの。胸が詰まるような痛みに共通したものがあったので、「ジャングルジム」が気に入った人は是非読んでみて!