サロメ:原田マハ著のレビューです。
誰かが誰かを愛して、愛から憎しみが生まれて・・・
この小説を読んでいると、愛し愛され、追って追われ、憎んで憎まれ・・・永遠に果てしなく続く、激しい感情との戦いに、終わりはいつ訪れるのだろうか?と息苦しさと不安が幾度となく押し寄せる。
サロメは気になっていた作品のひとつ。
いずれ読もうと思っていた作品の入口としてマハさんの小説は間違いなく興味を増幅させられる内容だったと思います。
本書の「サロメ」は、オスカー・ワイルドと挿画を描いたオーブリー・ビアズリー、
そしてオーブリーの姉であるメイベルを中心に、かつて彼ら共に過ごした濃厚な時が描かれている。
体の弱いオーブリーは、母と姉と貧しい3人暮らし。絵の才能はあるものの、貧しさゆえ美術学校にも行けず、保険会社の職員として働く傍ら絵を描き続けていた。
その後様々な経緯を経て、オスカーに見い出され、彼の絵は世に出ていくことになったのだが・・・。
とにかく結構な愛憎劇にあっという間に引き込まれてしまった。
当時の舞台事情や男色など知らなかった部分も多く、「サロメ」という作品がいかにセンセーショナルなものだったのかひしひしと伝わって来るものがあった。
登場人物はどの人々も見どころが多いが、特に女優であった姉のメイベルの弟への愛情がちょっと怖いくらい変貌してゆくあたりもゾクゾクする。
ワイルド、その恋人のアルフレッド・ダグラス。
オーブリー、メイベル。
4人がぐるぐると狙った獲物を追いかけて回っているような人間模様。
この小説を読んだ上でオーブリーの絵を眺めてみると、やはり最初に見た印象と大きく変わり、怖さのなかのもの哀しさが心を突いてくる。
オーブリーは結局25歳という若さで亡くなったが、わたしにはなんだか彼が「サロメ」の絵を描くためだけにこの世に生まれ、急いで去って行ってように思えてならない。
名作と呼ばれる作品にはそれ以上に激しい裏舞台がある。
地の底から這いあがって来たような情念が大きな作品となって私たちの前に現れて来たのではないかと・・・。