七時間半 :獅子文六著のレビューです。
風景が変わる、人が入れ替わる。そして、人の気持ちまでも変わりはじめる7時間半
短編がとても読み易かったという印象の獅子文六。
明治生まれの小説家が書いたものというと、個人的には重厚感ある小説を想像してしまいがちだったけど、獅子文六の描く世界はいい意味でとてもライト。
話のテンポ、登場人物のキャラ設定など、昔の小説を読んでいる感覚を忘れてしまうほど古さを感じさせないものがある。当時にもこんなコメディを書く作家がいたのだなぁと、ちょっとした驚きが。他の長編は未読なのですが、獅子文六氏は非常に新しい感覚を持っていた作家なのではないだろうか。
東京ー大阪間が汽車で7時間半かかっていた頃の話です。特急列車「ちどり」には食堂車があり、そこで働くコックたちをはじめ、ウエイトレスや、客室のサービスをするちどりの華、「ちどり・ガール」等々、乗務員たちの仕事ぶりと、恋愛模様を面白可笑しく描く。この列車は乗務員たちだけでなく、とにかくお客さんたちも個性的。
大阪の商人で女好きなスケベおやじ社長や、乗務員を未来の嫁にと考えている母と息子。社長に近づく謎の美人、そして、現首相・安倍氏の祖父・岸信介をモデルにしたと言われる岡首相まで「ちどり」に乗り込んで来る。しかも、話の後半では爆弾騒ぎまで起き、終始てんやわんや!たくさんの人々のいろんな思いを乗せて走る特急列車。
特にコックの矢坂と給仕係のサヨ子の恋の行方は大注目。ここにちどり・ガールの代表選手、有女子が邪魔をしたり・・・と、水面下での攻防が面白い。
七時間半、同じ空間で移動する人々。風景が変わる、人が入れ替わる、そして、人の気持ちまでも変わりはじめる。さぁ、大阪終点にはどんな物語が用意されているのであろうか?
お仕事小説とラブコメがとても良いバランスで描かれています。当時の小説の中でも入り易い内容と文章だと思います。軽すぎず重すぎず、そんな気分の時にお薦めです。
食堂車いいですよねぇー。ちょっと調べてみたところ、新幹線の食堂車は2000年まであったそう。人気がありすぎて廃止になったというのも皮肉なものです。昔ながらの太麺ナポリタン、食器をカチャカチャいわせながら、食堂車で食べたいなぁ・・・と、こちらの食欲も走り出す。