骨の記憶:楡周平著のレビューです。
ひとりの男の生涯を追う
ひさびさの600ページ超えの小説。
楡周平氏のお名前は何度もお見かけしていましたが、作品を読むのは今回が初めてです。
一人の女性のもとに51年年前に失踪した父親の頭蓋骨が宅配便で届くシーンからはじまる。これはまた・・・・ミステリーか、ホラーかといった雰囲気ではあるのですが、ここからはじまる長い長い話はほんとうに一言では言い尽くせないほど山あり谷ありで、思い出しただけでも息切れがしそうなほど。
骨の送り主、長沢一郎という男の人生から見えるものはあまりにも多すぎて。
集団就職で東京へやってきてからの暮らし。東京で知り合った人々と事件。
会社を興して、どんどんなり上がってゆく過程。
結婚し子供が出来るも出産とともに失う妻子。その喪失感。
2度目の結婚と妻の裏切り。そして、故郷の同級生への嫉妬。
前半は、東京に出て来た青年ががむしゃらに働き、そして、ある事件をきっかけに、どんどん成りあがってゆく様子に釘つけになったが、後半に向かうほど、気持ちがささくれて、殺伐とした気分になってくる。お金が増えれば増えるだけ、何かが刻々と失われていくような虚しい感じが襲ってくるのだ。
彼の最後はどこへ向かうのか・・・気になって気になって最後まで読むスピードが落ちることなく読了。
「金の卵」と呼ばれていた集団就職の実態から、成田空港建設闘争、東京オリンピックなど、その時代時代の出来事も興味深いところだ。
一見サクセスストーリーとも思えたのですけど、いや、愛憎劇か?と思えるシーンもあり、ごった煮感はあるけど面白い。
さて、冒頭書いた「骨」はどうなったのか?なんの意味があったのか?
後半に起こる目まぐるしい展開に巻き込まれながらラストへ。
やっぱり殺伐とした気分は拭えませんでしたけどね。
名も知れぬ一人の男の生涯を追う。
小説とはいえ、その道を辿るということはそれなりにハードな読書になる。そして手首も痛い。