十一月の扉:高楼方子著のレビューです。
魅力的な大人たちにも注目
一行一行、ラストに向かえば向かうほど気持ちがふっくらしてきて、この本を読んでいる幸せが実感できる。
年末からとぎれとぎれ読んだのですが、それでも本を開くとこの「十一月荘の人々」の温かさに包まれ「あぁ、いいな」というシンプルな言葉しか思い浮かばなくなる。
家族の引っ越しにより、転校するまでのわずかな時間を「十一月荘」で過ごすことになった中学生爽子の話。この「十一月荘」は爽子が家の窓から双眼鏡で見つけた素敵な下宿可能な家。親の許可がおり、爽子は家族とはじめて離れて暮らします。
家主の閑(のどか)さんをはじめ、建築家の苑子さん。シングルマザーの馥子さん。馥子さんの一人娘で小学生のるみちゃん。高楼さんの小説の気持ちよいところは、子供だけではなく、魅力的な大人が登場することにあると思っている。
本書も閑さんをはじめ、おおらかで、チャーミングな女性たちが子供たちの成長を上手にサポートしている。なんというか、子供の世界を邪魔をせず、ちょっと困った様子の時には押し付けがましくならないように、その時に合わせたお話をしてくれる。そんな温かい大人たちにも是非注目していただきたい。
爽子はこんな素敵な大人たちと、かわいいるみちゃんとお喋りをしながら、「十一月荘」での生活に馴染んでゆく。そして、爽子はここで出合った人々を動物たちに置き換えて「ドードー森の物語」を書き始める。作中にこの物語も同時に進行してゆきます。
穏やかな生活の中にも、思春期である少女がもつ親への感情、「十一月荘」に来る少年への恋心。自分の部屋で一人過ごす時間。じっくり内省しながら少しずつ大人になってゆく爽子の姿が伺えます。
中年過ぎてからの時間って、べったりしたお餅みたいに、
一年も三年もみんなくっついてて、どれがどれだかわからないんだけどね、その年頃の一年間と言えば、くっきりしてるし、すごく濃密。
閑さんの言った言葉なのですが、まさにたった2か月の話なのに、爽子の1日1日はとても濃密で、くっきりしている。読み手が大人の場合、そんなキラキラした日々が愛おしくもあり、戻れない時間に切なさを感じたり・・・。
巻末のもうひとつのストーリーまで素敵
ラストに向かうほどそのキラキラが増し、この物語から離れがたくなる。さらに驚いたのが、巻末の斎藤惇夫さんという方の書いた「耿介からの手紙」だ。耿介というのは、爽子が恋心を抱いた少年なのです。たった数ページなのに、ここでもまたひとつの素敵な物語が広がっている。なんて素敵な演出なんでしょう。
とにもかくにも高楼さんの作品は安心して読めるし、気持ちが本当にふっくらするから好き!