カラスも猫も:武田花著のレビューです。
感想
昭和の懐かしさを残した写真とエッセイ
なんてことのない日常エッセイなんだけど、私、こういうトーンの話、結構好きです。味で言うと「薄口」。あっさり、後をひかない、こってりした物のあとにかならず欲するような。
武田花さんはご存じの方も多いと思いますが、作家の武田泰淳さんと随筆家の武田百合子さんの娘。あのお二人のお子さんということで、どんな文章を書かれているのか
興味を持ち、読んでみたくなったのだ。
花さんご自身は写真家としても活躍されているそうで、本書もたくさんのモノクロの写真が掲載されています。写真の被写体はさびれた風景や物、動物などが多く人は出てこない。どれもちょっと淋しい雰囲気だけど、じっと眺めてしまうものがある。
そしてエッセイ。昭和30年代、花さんの小学校時代のトイレの我慢できず、畑でしてしまった話などからはじまる。
山王ホテルやホテルニュージャパンなど、懐かしい単語にはやくもノスタルジックな雰囲気に包まれる。
これもトイレの話なのですが、「清水まで」では、高校生だった花さん。宿から駅に向かう道で友だちともに急にもよおしてしまい、農家のトイレを借りにその家に立ち寄るがどうも誰もいないらしい。
しかし、もう限界だった二人はその家に侵入してトイレを借りてしまうという話で、読み手としてはハラハラドキドキな展開に身を乗り出すのだが・・・。
しかし、意外にもその後なにかあったのか?その時の気持ちはどうだったのかという記述はなく、あっさりと次の話に移っている。
淡々としているようで、内容はダイナミック
このあたりの「あっさり感」が私にはとても新鮮だった。どうしてもオチや締めの話を求めてしまいがちだけど、元来エッセイとか、日記なんかはこんなものなのかもしれない。そんな淡々とした文章がなんとも心地よく感じられた。
とはいえ、淡々としているようで、車が炎上しちゃったり、両親が田舎へ行ってしまった時、高級店でうなぎをひとりで食べに行った中学時代の話など、内容自体は結構ダイナミックなのだ。剥製の家のおじさんとの会話は秀逸!
そんなこんなで、花さんのエッセイは自分と相性が良かった。他にも何冊かあるようなので、早速チェックしなければ!