すしそばてんぷら:藤野千夜著のレビューです。
感想・あらすじ 地元に帰ってくるとホッとするあの感じ・・・の小説
もう、ズルいですよね!
タイトルといい、表紙のイラストといい、食いしん坊が素通りできるわけがない。わたくしも匂いに誘われるかの如くまんまとこの美味しい罠にはまってしまったわけです。
舞台は下町。
テレビのお天気おねえさんをしている寿々は祖母の家に居候している。婚約者に別れを告げられるし、気象予報士の試験は落ちるし、なかなかままならない日々ではあるけれど、さほど悲壮感もなくおっとり過ごしている。
おばあちゃんと暮らすようになって、江戸の食べ物に興味を持つようになる。ちょうどそのころ、事務所の社長の薦めもあり、江戸に関するブログを開設。その名も「江戸まちめぐり」。
ブログを書くにあたり、東京のグルメスポットに足を運ぶ。おばあちゃんはもちろん仲良しの同級生男子や事務所の人たちと、巡るお店はどこも魅力的。
笹乃雪の豆腐、どぜう鍋、笹巻けぬきすし、弁松のお弁当、老舗のお蕎麦、江戸前鮨、釜焼きの玉子焼き・・・・・都内在住であっても食べたことがないものも多く、場所の確認など、コツコツと検索する羽目に(笑)
この小説の良さは決してグルメよりというわけでなく、ささやかな人間模様もあり、その進展も上手く織り込まれている。
登場人物もみんな温和で無理がない感じが良い。とくに寿々のおばあちゃんは、料理やお菓子作りも得意だし、お茶目さもあって、なかなか目が離せない人物である。寿々の新しい恋愛をなかば強引にあれこれと仕掛けるキューピット的な存在でもある。
グルメも恋も人間模様も、どこまでもゆるく、ふわっとした雰囲気。ストーリー的に気になる部分も残された感はあるけれど、がっつり結論を求めたりする類の小説ではない。いい意味でどこをとっても「ほどほど」な感じです。
この作品って地元に帰ってくるとホッとするあの感じに似たものがあるんです。さてと、この本で知った美味しい食べ物を、この先いくつ食べられるかな?王子の玉子焼きは早急に食べたいなり!
文庫本