箱に入った男:アントン・P.チェーホフ著のレビューです。
感想:その箱だけは嫌なんだけどなぁ
またユニークなタイトルだこと!「すぐり」「恋について」との3部作の1冊ということで、まずはこれから読んでみることに。この3部作に共通して登場するのが、
獣医のイワン・イワーヌイチと、中学校教師のブールキン。二人は狩りが趣味で、本書はその二人が狩りに出た最初の晩に、眠れないブールキンが同僚のことを語るというのが本作品。つまり「箱に入った男」とは、彼の同僚のことなのです。
眠れない夜は同僚の話より「怪談」ではないの?でもでも、この話ってちょっと怪談っぽい!?
ベリコフというギリシャ語教師である男は、神経質で心配性で、警戒心も強く、型にはまりすぎている。そして、目立たぬよう人目を避けて生きている男。いつも「あとで何か起こらなければいいが」と不安を抱えている。
外見も年中オーバーシューズを履き、こうもり傘を持ち、黒めがねをかけ、綿入れのコートを着こんでいた。人目を避けるように生きているにも関わらず、何かと彼は注目されてしまうというところがまたなんとも・・・。人々は彼がいることによって窮屈で鬱陶しさを感じています。
彼こそ結婚すれば変わるかも?と、周りの人々も盛り上がり、大きな声で笑う陽気な女性とお付き合いをはじめたはいいが、その女性との結婚を断念する。「自転車に乗る」ことがどうしてダメなのか・・・。女が自転車に乗ることって、お転婆すぎるとか?いまだ私の中で理解ができないままです。
【ネタばれ注意!ネタばれ注意!】
柩に横たわった彼の表情はおだやかで心地よさそうで、楽しげですらありました。まるでここからは永久に出なくてもいいという箱におさまったのを喜んでいるようでした。そうです、彼はついに理想の境地に到達したのです。
─────という、なんとも皮肉な結末なのです。いや、これが彼にとって正しい着地点だったでしょう。まるで歯車が合わさった音が聞こえてきそうなほど、カチッと納まった感が読者にも伝わってきます。
さて、彼のことを窮屈に感じたり、疎ましく思っていた周りの人々は彼がいなくなったことにより、伸び伸びした生活になったのだろうか?これがまた一筋縄ではいかない余韻を残すあたりが、チェーホフの「味」なのかもしれない。
そういえば、外見こそは違うけど、箱に入った男、
現代社会にいるよね・・・・きっと。




