早春賦:山口恵以子著のレビューです。
感想・あらすじ
大河小説ということであるらしいが、どちらかと言うと、明治時代の階級をベースにしたドロドロ結婚劇場といった雰囲気で、もっと肉付けして昼ドラにしたら面白そうな内容。
財閥・大堂家の娘・菊乃は、政略結婚と知りながら伯爵家に嫁ぐことに。とは言え、菊乃が嫌々結婚したのかと言ったらそうではなく、見合いで一目惚れともいえるほど恋をして、夢と希望をもって未知の世界である伯爵家に嫁ぐのだが・・・。
生活様式から習慣、言葉使いにいたるまで、あれやこれやと実家とはまるで違う環境。少しずつ馴染んでいくと同時に、夫、舅、亡くなった夫の兄の嫁(義姉)へ、漠然とした違和感を持ちはじめる。
やがて、それらの違和感が具体的なものとして菊乃の身に降りかかってくるわけだが、それがもうなんというか、えげつないことばかり。
なんといっても、この結婚には夫の愛情が感じられることがない。そんな夫からの愛情を求めることを諦めた菊乃。割り切った女は強い。そこからどう彼女がこの伯爵家に挑んでいったのか見ものです!
後半は菊乃の娘の話に移行してゆきます。伯爵家の存命に懸命になる菊乃の執念が娘に刻々と注がれてゆく感じがちょっと怖いほど。
昼ドラの録画「新・牡丹と薔薇」を観ている時期に読んだので、それほど濃ゆい感じはしなかったけれども、それでも徐々に明かされていく一家の「闇」に飲み込まれ次の展開が気になって本を手離せなくなる感じは、まさに昼ドラに感じる高揚感そのもの。
少し昔の女の生涯を書く山口さんの小説を読むのはこれで3冊目。ドロドロ展開にさらに肉付けしたらもっと面白いのになぁーと。意外にも、読後にサラッとしちゃうのが惜しい感じ。今後、さらに深い女性の生涯ものを期待しています。