ケチる貴方:石田夏穂著の書評です。
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感想・あらすじ ケチる貴方:石田夏穂
ん?これはちょっと新しい感覚が味わえる作品を読んだかも...という読後感があった。というのも、話の軸になるものが、自分の体質についてであり、そのことと日常生活がミックスされるとこんな風になるのか...という、ちょっと表現しがたいのですが、この視点、新しい感じがする。
2編の小説からなる。表題の「ケチる貴方」は、極度の冷え性の女性の話。「その周囲、五十八センチ」は、太ももが58㎝あることから、脂肪吸引をすることにした女性が、他の部位も次々と脂肪吸引をしていくという話。
冷え性は多くの女性たちが悩むもののひとつ。主人公の女性も冷え性なのだが、そう見えない体型でなので、周りに気を使ってくれる人もなく、社内での温度調節に四苦八苦する。寒い状況を描くのが本当に上手く、こちらまで寒くなってくる。
それだけではない。こちらの小説は彼女の仕事関係の話も地味に面白かったりする。新人教育を任された彼女の気持ちや、新入社員の様子、男社会の業界の様子を、かなりリアルに描いている。ひょっとして、石田さんはこういう業界で働いた経験があるのかなぁと思わされたほど。
そんな彼女、ある時から、冷え性の症状が治まってくる。冷え性の原因はなんと「ケチ」だったと。「なにそれ?」って感じですが、ケチらなくなるにつれ、彼女の体の状態は、みるみる改善されていく。さて、彼女はどんなことをケチらなくしたのか。
便秘の人は収集癖がある人に多いってことを何かの本で読んだことがある。要はなにごとも溜め込むってっことらしいのだけど、当時は「え~そんなこと関係ないんじゃない?」って思ったものだ。しかし、本書を読んでいると、もしかしたら自分の体の中で起きることは、そういう本人の意識と微妙に繋がっているのかもしれない....なんてことを考えさせられた。体は私たちに正直にサインを出し続けているのかもと。
「その周囲、五十八センチ」は脂肪吸引の話だけど、あちこち吸引していくうちに歯止めがきかなくなる。というのは、美容整形なんかでもよく聞く話ですよね。脂肪吸引の痛みと本人の思いとは?これもちょっと歪んだ感覚なんだなぁ。
ということで、自分の体とここまで向き合う小説は、ここ最近読んだことがなかっただけに、新鮮で面白かったです。石田夏穂さんの作品は、今後必ずチェックする作家さんになりました。注目ですよ!!
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群像
「群像」にも収録されているよ!
石田夏穂・プロフィール
1991年埼玉県生まれ。東京工業大学工学部卒。2020年本書収録「その周囲、五十八センチ」で第38回大阪女性文芸賞を受賞。2021年「我が友、スミス」で第45回すばる文芸賞佳作、同作で第166回芥川龍之介賞候補。2022年本書表題作「ケチる貴方」で第44回野間文芸新人賞候補となる。(Amazonより)
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