冷ややかな悪魔:石田夏穂著のレビューです。

☞読書ポイント
感想・あらすじ
ひとつの短編小説が1冊になっているといった具合で、かなりコンパクトなサイズです。持ち運びしやすいです。最近紙の本もどんどんコンパクト化してきたなぁ~と言う印象が。
それはさておき、相変わらず石田さんの社内系の物語は面白い。肉体とお仕事と独身女性の鬱憤の行方.....みたいなものが、文章の中に満ち満ちていて目が離せませんでした。
主人公は商社勤務の有田ユカリ。三度の飯より海外出張をこよなく愛する37歳の独身女性。ある日彼女は会社から「出張禁止」を告げられる。なんでも体脂肪率が高かったため、体脂肪率を落とさなければ出張はできないと。会社としても出張先で万が一の事態があってはならぬということなのだろう。
出張が大好きな彼女は、いきなりの宣告に戸惑い、どうにか早く体脂肪を落とそうと躍起になり、人生はじめてのジムに通いへ。ここからジムのトレーナーとのやり取りが始まるのだけど、ここでも人間関係で小さなストレスが溜まっていく。
よく知らない相手とのコミュニケーションって互いに探り合いというか、気を遣い疲れてしまいがち。ちょっとの共通点から話が弾んだりするわけだが、ここでは結婚してパートナーがいるかどうかが鍵となる。ユカリは独身なわけだが、ジムで指輪を拾って、それをはめたことから、各段と世界が変わる。

「結婚指輪のその幅せいぜい五ミリは、ものすごい雄弁である。」って、すごい説得力あるなぁ。確かにここに書かれていることって、社会のあるあるですよね。独身か既婚かで微妙に見方を変えられることって、この社会には普通にある。薬指の指輪はそれを判断する材料としてわかりやすいアイテムだ。
主人公のユカリは指輪で得た人間関係の心地よさに浸る。ある意味生まれ変わったかのように何もかもがスムーズだ。しかし拾った指輪がどんな事態を招いてしまったか、その行方にもハラハラさせられる。
121ページという短い小説だけど、ものすごい充実感が!グイグイと読者をのめり込ませる魅力が満載だ。内容的には一人の女性が理不尽な世の中に傷ついたりするわけだけど、読み心地はカラッと爽快。そこがたまらず良い。肉体系+企業という世界を書きまくっている石田さん。次はどんな主人公がやって来るのか。わたしの中で、次作が楽しみな作家のひとりになった。
石田夏穂プロフィール
1991年埼玉県生まれ。東京工業大学工学部卒。2021年「我が友、スミス」が第45回すばる文学賞佳作となり、デビュー。同作は第166回芥川賞候補にもなる。2023年刊行『ケチる貴方』は野間文芸新人賞候補、織田作之助賞候補に、同年刊行『我が手の太陽』は第169回芥川賞候補、第45回野間文芸新人賞候補になる。その他の著書に『黄金比の縁』、『ミスター・チームリーダー』がある。(Amazonより)
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