平凡:角田光代著のレビューです。
感想・あらすじ ああ、なんて人生は奥行き深いのだろう
6つの話はどれも同じテーマを描いているのだけど、それぞれ全く異なった人生が描かれていて、読むたびに新鮮な気持ちになれる短編集でした。
選ばなかったほうの別の人生。もし、あのとき・・・・・
若いころにはそれほど過去を振り返る余裕もなく、「あの時」より「今」しか見えてなかったけど、分岐点を幾度か経験して来ると、「もし、あの時あっちの道を選んでいたら・・・」なんて考える機会が増えたような気がします。
本書もそんな選ばなかった方の人生を考えさせられる内容で、自分のことではないけど、どっぷり主人公たちの気持ちに入り込んでしまえる面白さがあった。
分岐点の大きなイベントと言えば、就職や転職、結婚や出産などを単純に想像しがちだけど、「どこかべつのところで」という話では、息子におにぎりを作ったばかりに、息子を事故に遇わせてしまい、そこから大きく人生が変わってしまう母親の切ない話が登場する。
おにぎりを作らなければ1本でも2本でも前のバスに息子は乗れたのではないか・・・と悔やむ女性と、窓を開けっ放しにしておいたばかりに飼い猫が逃げてしまったという女性が会話を交わす。
どちらもほんの些細なことで大切なものを失ってしまう。
小さい出来事が大きな人生の分かれ目になってしまうことだってあるのですよね。
辛い経験は「後悔」という形になって、より強くあの時の「もし」を考えてしまうのだ。
この息子を亡くした女性は、「もし家族がいたら今晩の献立は?」と聞かれ、何のためらいもなくスラスラ答えるシーンがある。ずっと一人であの時から彼女は「もしあの時間がなかったら」と「現実」との間を見つめながら生きてきたのだなぁ・・・と。
スラスラ答えてしまうことがなんだか切なくて。
不倫カップルと旅行を共にする夫婦の話は、終始この不倫カップルにイライラさせられるけど、事の成り行きが気になって最後まで読まないと眠れなかったし、別れた恋人がその後どんな人生を歩んでいるか。不幸なのか、幸せに暮らしているのか。こちらも、ドキドキしながら一気に読まないと気が済まない話だった。
どの話も面白く、一気に読みたくなるものばかりなので、1話分は最低でも読める時間を確保の上、お読みください!
ちなみに本書は「新潮社」。
発注FAXが続々と「平凡社」に届く!とネットで話題に(笑)
文庫本
文庫は青箱みたいですよ!