光のうつしえ 廣島 ヒロシマ 広島:朽木祥著のレビューです。
最後に交わした言葉や姿を思い出しながら、いつ戻ってくるのか分からない人を待つほど、切なくてつらい時間はないだろう。
戦争の悲劇は言うまでもなく映像を見ては言葉を失うことが多かったのですが、本書はなんて言うのだろう…。もっと身近で、心に沁み入って来る切なさ、やりきれない感情、痛み、淋しさが文字を通して、しんしんと伝わってくる感じがあります。
─────ある日突然、いつも一緒に居た人が戻って来なくなる。
「あの日」を経験した一人一人の人生にフォーカスを合わせ、現在と過去を振り返りながら希未や同級生たちと一緒にあの日の出来事を、大人たちから教えてもらうというストーリー。
戦争が終わり、数年経って、そして数十年経って…。
表面上は元の生活が戻って来たように見えても、今もあの時と同じ気持ちで大事な誰かを待ち続けている人々がいるということを、こんなにも切ない想いをずっと持ち続けている人々が居ると言うことを、登場人物を通して教えられる。
「平和」って言葉を思い浮かべるとき、国と国とか、世界とか大きなことを考えてしまっていたけれど、本書を読んでいるうちに、もっとずっと身近にある「平和」を引き寄せたくなった。
「いってらっしゃい」「いってきます」と言い合った者同士、再び同じ場所に戻り、夜ご飯を一緒に食べ、安心して眠りに就く。当たり前に終われる一日、一緒に居られることこそが「平和」なんだと。
最後に交わした言葉や姿を思い出しながら、いつ戻ってくるのか分からない人を待つことほど切なくてつらい時間はないだろう。
「戦争」によって「おかえりなさい」が言いたくても言えなかった人々が大勢いらっしゃること。灯籠流しは年中行事のひとつと捉え、美しい映像を見ていた私でしたが、そういった方々のたくさんの言葉にならない想いを乗せて毎年流しているのだということを再度心に刻みました。
「よく知っていると思っていることでも、本当は知らないことが多い」
本書はそんなことに何度も気づかされる一冊です。
内容にはあまり触れませんでしたが、あの日を境に人々がどのような気持ちを抱え、
今日まで力強く生きて来たのか、丁寧に描かれた作品です。全ての方におすすめ…。