ビニール傘: 岸政彦著のレビューです。
感想・あらすじ 雨宮まみさんが「東京を生きる」なら、岸さんの本書は「大阪を生きる」だ。
大阪が舞台とあって本のなかにある街は私の中で勝手に描かれた風景。
実際登場する街はどんなところなのだろう....。なんてことをずっと考えていた。
グーグルマップで目標を一点に絞り込んで、上空からずんずん降りて行った先には、きっとこんな人々の日常が表れるのだろう。
人々が日々様々なことを考えながら職場に向かい、ふとしたタイミングで出合いがあり、ひとつの命が知らぬ間に消えてゆく。
ズームアップされたレンズの先を覗き込むとそこかしこに人間ドラマが広がっていた。
景気の悪くなった大阪の街。
干からびたカップラーメンの容器がエレベーターに捨てられたままになっているシーンなどが妙に心に焼き付く。
日のあたらない狭いワンルームマンション。
国道を行き来するバスやトラックの音は和歌山の海の音に似ていると、窓を開けっ放しにして寝ている女性の風景。なにもかもが気だるく、もの哀しく感じるシーンも多い。
なんとなく繋がっている男と女、日雇い労働者、散らかった部屋、ビニール傘、バーミヤン、環状線、廃墟ビル・・・・。
小説と捉えると掴みどころがなく、明確な筋があるものとも言えない。
しかしこの本の醸し出す空気や雰囲気は深い余韻を残す。
ふわふわしているようでどこか現実的であったり。私が大阪の街をもっと知っていればもしかしたら違った感想になったのかもしれないれど・・・。
好き嫌い分かれる小説であると思います。映像的な小説で、事柄よりも情景を想像して読むのが好きな人によりフィットするのではないかな。
大阪を扱った小説と言えば賑やかなものを想像しがちでしたが、本書はもの淋しさがあり、地元が恋しくなるような気分にもなりました。
岸さんのお名前は、雨宮まみさんの本を探しているときに知った。おふたりの対談集があるようですが、たまたまこちらの本も知り、読んでみたいと思った。
雨宮さん繋がりで知った一冊でしたが、雨宮さんも岸さんも都会の中の渇いた感じや孤独感のトーンが大変似ていました。
雨宮さんの作品が「東京を生きる」であれば、岸さんの作品は「大阪を生きる」であるように思えます。お二人がどういう形で知り合ったのか興味が出てきました。
岸政彦プロフィール
1967年生まれ。社会学者・作家。著書に『同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち』『街の人生』『断片的なものの社会学』(紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)『ビニール傘』(第156回芥川賞候補、第30回三島賞候補)『マンゴーと手榴弾――生活史の理論』『図書室』(第32回三島賞候補)『地元を生きる――沖縄的共同性の社会学』(共著)など。(新潮社・著者プロフィールより)
岸さんは、社会学者で、沖縄関係の本も書かれています。プライベートでは猫・ジャズ・大阪生活等々についても、Twitterで呟かれています。岸さんの本で、社会学がとても身近に。興味のある方は、小説以外も読んでみると面白いかもね。