文豪、社長になる:門井 慶喜著のレビューです。
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感想・あらすじ 文豪、社長になる:門井 慶喜
菊池寛と言えば「真珠夫人」や「貞操問答」「第二の接吻」など、自分にとっては面白い作品を描く小説家のイメージしかなかったのだけど、本書を読むとなかなかの野心溢れる起業家であることが解る。なので本書を読んで、私のなかにあった菊池寛のイメージがものすごく変わったと言っても良い。
芥川龍之介や直木三十五や川端康成の協力を得て、「文藝春秋」を創刊させた菊池氏。このあたりの人選や、時代の流れを読む感覚が鋭い菊池氏は、雑誌の部数をみるみる上げ、順調なビジネス展開を繰り広げることになる。
しかし、うんと目を掛けていた芥川龍之介や直木三十五は早々に亡くなってしまうし、何度も仲間たちの裏切りにも遭い、資金繰り、戦争に翻弄されたりと、やはり会社経営というものは一筋縄ではいかない。そんな厳しい時代ではあったわけだが、意外にもへこたれる雰囲気を見せない菊池氏はやはり強い人なんだろうなぁと。
本作は菊池寛が非常に人間味ある姿で描かれている。色々人間関係でゴタゴタはあるものの、なんか憎めない存在というか。その一つには、随所に見られる芥川氏や直木氏、仲間たちとの交流や、彼らに向ける菊池氏の熱い思いが感じ取れるからだと思います。個人的には石井桃子さんの動きが興味深かったです。石井氏に右往左往する菊池氏の姿も印象的でした。
芥川賞や直木賞の由来をイマイチ知らなかった自分にとって、これらの賞のはじまりに菊池寛のこんなにも胸熱な友情への思いがあったことを知ることが出来て大満足です。
本書は文藝春秋創立100周年記念の作品であるそうです。現在は「文春砲」で、なにかと話題が絶えない出版社ですが、こうした流れを、もし菊池氏が生きていたらどう思うのだろう。そして、もし菊池寛が編集する雑誌が再びあるとすれば、どんな作家たちを集めるのだろうか?菊池寛がプロデュースする本を読んでみたかったなぁ。
ということで、文藝春秋さん、創立100周年、おめでとうございます。
読後に知ったのですが、菊池氏、かなり女遊びも激しかったようで、没後、女性トラブルについて、夫人が「文藝春秋」に暴露したとか。文春のこういう体質は当時からすでに始まっていたんですね。
門井 慶喜・プロフィール
1971年、群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞し、作家デビュー。2016年『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞。2018年には『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞。主な著書に『家康、江戸を建てる』『ゆけ、おりょう』『屋根をかける人』『『定価のない本』『自由は死せず』『東京、はじまる』『銀閣の人』『なぜ秀吉は』『地中の星』『ロミオとジュリエットと三人の魔女』『信長、鉄砲で君臨する』など。(ブックバンより)
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わたしの中ではやっぱり菊池寛は小説家。こうした昼ドラっぽい小説が最高に面白い。本音はもっと作品を残して欲しかったなぁーと。...というか、この本の出版社は文藝春秋からではないのね?と、そこも気になった(笑)