ここで土になる: 大西暢夫著のレビューです。
感想 こういう強さと言うものが存在する
昭和2年生まれの夫の茂さん。
昭和4年生まれの妻のチユキさん。
20代で結婚したふたりは
60年ずっと熊本県の五木村で暮らしている。
この本から感じられることをひとことで表すとすれば「強さ」。
優しい笑顔からはちょっと想像できないのですが、
お二人の確固たる強さに心を打たれる。
それはとても静かなものではあるけれど、
こういう強さと言うものが存在するのだなぁと。
もうひとつこの村には大きな存在感を持つものがある。
大イチョウの木だ。
大イチョウの周りにはお堂と広場と村人たちが眠っている共同墓地がある。
人々が集まるこの場所で大イチョウの木は村のできごとをずっと見て来た。
かつてこの集落はたくさんの人々が生活をしていた。
自然に恵まれ、のんびとした村は子供たちもたくさんいた。
しかし、ダム建設の計画に翻弄された村人たちは疲れてしまい徐々に村を後にする。
大イチョウさえも痛々しい姿にされ、大移動の準備を始めた。
その矢先に・・・・建設工事が止まったのだ。
結局残ったのは大イチョウと共同墓地と尾方さん夫婦のみ。
これからたった二人だけで村で暮らすことなど出来るのだろうか?
おふたりが覚悟したことは、すっかり変わり果てた村ではあるけれど、大イチョウの木とともに暮らすこと。
強い、本当に強い人たちなのだ。
移動のため痛々しい姿にされたイチョウの木もやがて足元に銀杏が何粒か落ちるまで回復する。大イチョウの木も強い、本当に強い木なのだ。
あらためて表紙を眺めてみた。
根を張って強く生きることの覚悟がずっしり感じ取れるタイトルに圧倒される。
色々とご不便なことも多いでしょうが、住んでいる土地にここまで強い愛着をもって暮らす毎日はとても幸せなことなんだろうなぁと思わずにはいられない。
おふたりの表情がなによりもそれを語っている。