すみなれたからだで:窪美澄著のレビューです。
ヒリヒリする。ズキズキする。それでも窪さんの読者でよかったなぁと実感できた短編集。
「すみなれたからだで」は、窪さんの世界をこれでもかというくらい
堪能できる質の高い短編集です。
読めば読むほど窪さんのファンでよかったなぁ実感できました。
ずっとヒリヒリ、ズキズキするような感覚が襲う読書は、逃げ出したくもなるのだけれども、登場する人々の行方を見届けたくて一心に読みふけってしまう。
生きること。死ぬこと。生まれること。老いること。影の中にあるほのかな光。
一つの作品の中にこれらの対照的な部分が交差し、そのたびになにかをツンツンと突かれるような痛みを抱えながらページをめくり続けた。
冒頭の「父を山に棄てに行く」。
ドキッとするタイトルは、年老いた父親を介護施設に入所させる
娘を描いたもの。生きるのに必死な親子と自殺未遂を繰り返す老父。
「バイタルサイン」は母親の再婚相手の義父といつの間にか関係を
持ってしまった娘。数十年後にその義父と再会することになったわけだが・・・。
激しい官能から再会にいたるまでいや本当、ずっと気持ちが定まらずにいたけれども、最後はじんわり胸に迫るものがあり、まるで映画を観たあとのような余韻があった。
そうかと思えば、「銀紙色のアンタレス」はひと夏の恋とでも言おうか。
海が大好きな高校生が夏休みに祖母の家で過ごし、年上の女性へ気もちを募らせるというピュアな青春小説。幼馴染みの子と年上の女性。各々へ向ける少年の気持ちの動きが絶妙!窪さん、こういった小説もものすごく巧い!!
そしてそして・・・
「朧月夜のスーヴェニア」では家族にはすでに認知症扱いされている老女の過去の恋愛を回想した話。
戦時中の恋愛の記憶を栄養にして日々を滑らかにして、自分を鎮静化させて今まで生きて来たという老女。短編であるにもかかわらず、長編を読んだような重厚な内容に何とも云えない深いため息を漏らさずにはいられない。
とにかく本書は窪さんが詰まっている。
順調に生きられない人々がなにかを手繰って、手繰って、日々折り合いをつけながらどうにか生きている。
その姿を目の当たりにして戸惑ったり、傷口をえぐられるようなキリキリした痛みが伝わってきたりと・・・。それが窪さんの作品なのだと思う。
ここ5年くらいの間に色々なところに出された作品とのことです。
数年間を通して読んだことによってこの作家の輪郭がはっきり見えてくる内容でもあったと思います。個人的には改めて窪さんの作品たちに惚れ込んでしまったのでした。