世界の果てのこどもたち:中脇初枝著のレビューです。
読書ポイント☟
3人の少女たちはある一時、満州で出会い、友情を育み、そして離れ離れになる。心の糧になるものがあるということが、生きる上でどれだけ支えになるものかということを教えられる。
感想:もっともっと世に出て欲しいと思えた作品です
戦中、戦後と、それぞれの国の子供たちが過酷な状況からその後どのような人生を歩んだかを綴った小説です。
高知県から親とともに満州に渡った珠子。
朝鮮人の美子。
裕福な家庭に育った茉莉。
3人の少女たちは、ある一時に満州で出会い、友情を育み、そして「ひとつのおにぎりを分け合う」という共通した温かい思い出を胸に、離れ離れになります。
終戦。
大自然に包まれ、穏やかに生活していた風景から一転し、珠子は中国残留孤児になり、日本人であることを隠しながら中国人の両親に大切に育てられる。
美子は祖国に戻れず在日朝鮮人として差別を受けながら日本で暮らす。
そして茉莉は、横浜の空襲で家族を失い孤児になる。
ひとりひとりに起きた出来事を丁寧に追ってゆく。
ただそこに居て、そこで生きるしか選択肢のなかった子供たち。
悲しいとか、辛いとか、寂しいとかそんな感情すらもつ間もなくそれぞれの生きる道を受け入れ歩み始める。
たくさんの家族や知人の死、容赦ないシーンもたびたびあり、憎しみ、やるせなさ、虚しさ等、感情の嵐に埋もれそうになるのだが、それ以上にこの小説では、人にはいかに心の糧になるものが大切でそれが生きる上でどんなに支えになるものかということを教えられる。
彼女達の心の中にずっと灯っていたものは・・・
1つのおにぎりを分け合って食べた思い出。
ある日のほんの些細な出来事の記憶が、何年経っても、どこにいても、彼女達の心の中にずっと灯っていたのだ。
子どもたちとは無関係なところで、奪うことばかり横行していた時代に、分け合うことを知っていた少女たちの姿はひときわ引き付けるものがあった。
全体を通して印象的だったのは中国残留孤児の珠子の話でした。
何者かにより連れ去られ、その後中国人のもとで育てられる珠子。
幸い中国人の両親は愛情深く育て命をかけて彼女を守り貫く。
しかしその一方、日本人だということをひた隠し、中国人として生きてきた珠子は中国語が話せるようになるとともに、日本語も家族のことも記憶から消えてしまう。戦争によって家族が引き裂かれ、祖国での記憶すら無くしてしまうほど人を変えてしまう。こんなことが実際起きてしまうのだ。
戦争とは本当に恐ろしいものだ。
戦争を扱った小説の書評を書くのは苦手だ。
どんなに思うこと、感じることがあっても、言葉が追いつかない。
今回はそれを痛烈に感じました。
ご縁があってこの夏に読むことが出来た「世界の果てのこどもたち」。
もっともっとたくさんの方々に読まれて欲しい─このひとことを伝えたくて、拙い書評になりましたが、どなたかがこの本を手に取るきっかけになればいいな~という思いを込めて書きました。